表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/16

第12話 残された道

「一つだけ方法がある」


 ヴェルは改まった顔で、俺の目を見つめる。その真剣な面持ちに、俺は思わず喉を鳴らす。


「隠れ家にいた時に大尉……うちのメイゲンがキミにどのくらいの温度の炎を出せるか聞いたよね」

「ああ」

「確か、通常は六百から千度、出そうと思えば二千度まで、と仰っておりましたね」


 メイゲンさんの言葉を聞いて、ヴェルはコクリと頷く。


「デレツィアの城門の落とし格子は鋼鉄でできてるの」

「……それがどうしたんだ?」

「鋼鉄の溶ける温度は千五百度よ」

「まさか、城門の格子を俺の炎魔法で壊すって言うのか!?」


 ヴェルは何も言わず、ただ頷く。


「……でも、それなら、城門へ行かなくとも城壁を……っ!」


 俺はその時、デレツィアに入った時のことを思い出し、途中で言葉を止めた。城壁から感じた魔力――それは。


「そう。城壁には強力な防御結界魔法が張られてるの。それを突破してさらに壁を壊すのは厳しい。でも城門は違うわ」


 城門には防御結界魔法が張られていないという訳か。 

 防御結界魔法は、いわば魔力の壁――魔法・物理問わず、一切のものの浸透を防ぐ魔法だ。

 だが、防御結界魔法には対象の敵意や攻撃の意志に関わらず、全てのものの侵入を防ぐ性質があるため、人や物の出入口としての空間である城門には通常、張ることはできない。

 城門が封鎖され、人の出入りがない夜間だけ付与している可能性もなくはないが、防御結界魔法は耐久値がなくならない限り永久的に持続する反面、構築には他の魔法の数倍の魔力と時間がかかる。城門くらい巨大な範囲に構築しようと思うと、それこそ数時間はかかるだろう。

 故にデレツィアといえど、ヴェルの言う通り、城門には防御結界魔法が張られておらず、その分警備を多く配置して、その弱点を補完していると考えた方が理にかなっているだろう。


「……ダメかな?」


 返答をせず、独り考え込む俺を見て、ヴェルが声を掛ける。不安の滲んだ細い声。

 まだ魔力も残っているし、肉体的な疲労もそこまでない――高出力の炎魔法を放つことはできる。むしろ今の状況からすれば、それが最適なのだろう。

 だが問題があった。

 

「千度を超える高出力の魔法を使うと、いくら正確に狙っても、周辺数メートルは焼いてしまう。そうなると、城門を警備してる騎士もみんな巻き込むことになる……」


 いくら緊急時とは言え、無実の人間を無闇に殺すことはできない。「ここまで来て何を」と言われるかもしれないが、これだけは譲れない。自らの力を、師匠から継いだこの力を、無実の人間を殺めることには使えない。


「その憂いがなくなったら、やってくれるの?」

「ああ。もうそれしか方法はなさそうだしな」

「わかった。じゃあ、私たちが囮になって騎士を引きつけるから、その間に格子を焼き切って」 

「いいのか?」


 ヴェルは意外にも、すんなりと俺の意見を受け入れてくれた。

 

「ええ。私たちとしても、必要以上に犠牲を出すことは望んでないもの。ね、大尉?」

「勿論です。それで、ブレイド様、どれくらいの間。騎士団を引き離せばよろしいですか?」


 どれくらい……か。通常の炎魔法なら瞬時に放つことができるが、千五百度となると高出力である上に、久しく使っていない。発動には魔力を貯めるのに三秒、さらに詠唱と並行してイメージを組み上げるのに五秒ほどは要するだろうか。イメージを確実に定着させる、"補助"としての詠唱は、少し時間を取るが、使い慣れていない魔法を使う際は用いた方がいい。

 

「十秒あれば大丈夫だと思います」

「心得ました」


◆ ◆ ◆

  

 俺は東門へと通ずる大通りに出る手前で、車を降り、付近の建物の陰に身を潜めた。


「おい! 奴らだ! おわっ!!」

「逃げたぞ! 追え! 追え!」


 騎士たちの怒号が飛び交っている。メイゲンさんは上手くやってくれたようで、城門前で待機していた騎士の半分ほどが車を追う形でその場を離れた。

 あとは……。


「何だ!?」


 甲高い指笛の音が通りに響いた。


「おい! 逃げたぞ!」


 ヴェルの挑発に乗って、残っていた騎士も全員、城門から離れた。

 門前に誰もいないことを確認すると、俺は一人、通りへと出る。しかし、城門の警備がいつ戻ってきてもおかしくはないし、水路からの追手ももうじき到着するだろう。時間はあまり残されていない。


「〈帯炎イグナイト〉」


 剣を鞘から抜き放ち、白銀の刃に紅蓮の炎を宿す。城門の格子(ターゲット)を確認してから、そっと目を閉じて、感覚を集中させる。


「恐れながら申し奉る。今、我、眼前に立ちはだかりし、障害を焼き尽くさんと欲す。諸天、諸神、殊には炎の精霊よ。我にその力を与え給え。烈火の奔流を今放たん。〈暴爆の火竜を(ディオラ ガエン)統べる王(ノイ ラーク)〉!!」

 

 詠唱、そして魔法名に続いて剣を振る。剣先が空気を切り裂くと同時に、紅蓮の炎が解き放たれる。


「うわっ……!」


 脇から戻ってきた騎士が姿を現すが、衝撃波と熱波に怖気づき、その場で腰を抜かす。ギリギリだった。


 炎の奔流ほんりゅうは竜の如くうねりながら、城門へと突き進む。そして城門の格子に達した刹那、耳をつんざく爆発音が辺りに響く。格子は真っ赤に染まり、ひしゃげ、勢いのままに散る。

 

「これで、脱出口は開けた……」


 俺はほっと安堵のため息を漏らした。しかし、その刹那。

 

「ふざけるなぁぁぁ!!」


 怒号が背に掛けられた。振り向きざまに目に入ったのは、剣を抜き放ち、こちらへ斬りかかる女騎士の姿だった。

鋼鉄の城門を破壊したブレイド。しかし、背後から怒号が響く。果たしてブレイドはデレツィアから抜け出せるのか?


面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、感想、評価など、応援のほど、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ