第93話 彼女の読者 第4話 光莉
1.光莉の手元
光莉の元にも、純からの手紙が届いていた。
『あなたが書くなら、私は応援する。でも、無理はしなくていい。あなたのペースで。私は、沈黙を選ぶ。それが、私の答えです』
光莉は、その手紙を何度も読み返した。
(純さんは、沈黙を選んだ)
(何も書かない。何も言わない。それが、彼女の答え)
(でも――)
(私は、どうすればいいんだろう)
(純さんは「書くなら応援する」と言ってくれた。でも、私はまだ書けない)
(書くべきことが、まだ見つからない)
彼女は、机の引き出しを開けた。そこには、あの日のAIレポートがしまってある。四つの選択肢が点滅していた画面のスクリーンショット。
「採用」「アーカイブ」「破棄」「保留」
(あの日、私は「私が書く」を選んだ)
(でも――まだ、書けていない)
2.窓の外
光莉は、窓の外を見る。
都会の夜景が広がっている。その光のどこかに、父がいる。母がいる。純がいる。康介がいる。Eがいる。沙織がいる。
(純さんは、沈黙を選んだ)
(拓さんは、何もしないことを選んだ)
(康介さんは、見守ることを選んだ)
(Eさんは、あの日、メモを置くことを選んだ)
(沙織さんは、描き続けることを選んだ)
(みんな、それぞれの答えを出している)
(では、私は――)
(私は、まだ答えを出せていない)
(でも――)
(それでいいのかもしれない)
(答えを出すのは、これからでいい)
(私には、時間がある)
光莉は、純からの手紙を、机の引き出しにしまった。
窓の外の光が、静かに揺れている。
光莉は、まだ書けない。でも、その「書けない」という状態を、初めて受け入れられた気がした。




