表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/113

第80話 核の窓 ―拓の内側― 第4話 核の再構築

1. 裏アカウントという訓練場


・社会人


拓は「書くこと」をやめた。代わりに始めたのが、裏アカウントだった。


最初は軽い気持ちだった。パンストフェチという性癖を、誰にも知られない場所で発散する。誰にも見られない。それがいい――そう思っていた。


でも、すぐに気づいた。「いいね」がついている。誰かが見ている。誰かが、俺の言葉を読んでいる。それは少し怖い。でも――誰かに見られることで、自分がここにいることを確認できる。


ある日、ダイレクトメッセージが来た。

「フェチだけじゃなくて、何か抱えてんじゃない? 文章に出てるよ」


この人たちは俺のことを何も知らない。でも、書いた文章から何かを感じ取っている。表の世界では誰も俺の奥を見ようとしない。でも、ここでは欲望むき出しのままで相手の奥を見ようとする。それが怖い。でも、それがリアルだ。


表の世界は「大人」だった。みんな仮面をかぶり、傷つかないように距離を取る。そこでは拓の核は通用していた。誰も奥を見ようとしないからだ。


しかし、裏アカウントの世界は違った。そこには小学生の頃の原風景があった。嘘もあれば、汚い言葉もある。欲望丸出しの人間が仮面を外してぶつかってくる。ここで勝てなければ、俺の核は意味がない。


裏アカウントは、拓にとって「核の訓練場」だった。


表の世界では試せなかった自分の核を、欲望むき出しの相手にぶつける。


誰にもバカにされたくない。そのコンプレックスが俺を動かしていた。


表の世界でバカにされるのはまだ耐えられる。でも、ここでバカにされたら、それは本当の自分がバカにされることだ。


だから、ここでは絶対にバカにされない。自分の核を誰にも触れさせない


でも――それでいいのか?


ここで強くなったと思っている核は、本当に自分の核なのか? それとも、また別の仮面を被っているだけなのか?


裏の世界で剥き出しの欲望と対峙しても、結局ここは「裏」だ。表ではない。自分の内を隠していることに変わりはない


強くなった気がする。でも――どこか、物足りない


このモヤモヤは、何なんだ


その違和感を、後に純が嗅ぎつけることになる。拓はまだ気づいていなかった。でも、確かにそこに「何か」があった。


・純という視線


純に裏アカウントのIDを見せたあの日、拓は一瞬、彼女の目が画面の隅に止まるのを見た。


(見られた)


その瞬間、恐怖と、それ以上の何かが胸をよぎった。


(この人は、俺のことを見ている。これからも、見続けるかもしれない)

(でも、それでいい。見られることを、受け入れよう)

(これまで鍛えた核があれば、大丈夫だ)


拓は、その時初めて、自分の「核」の外側に誰かを招き入れた。完全にではなく、ほんの少しだけ。でも、確かに。


純は、その後5年間、拓のアカウントを見続けた。拓はそれに気づいていた。でも、何も言わなかった。


(彼女は、俺の何を見ているのだろう。俺にはわからない)

(でも、それでいい。わからないまま、見ていてもらえばいい)

(核があれば、それでいい)


――そう思っていた。でも、違った。


(もしかしたら、彼女は俺の「核」を見ていたんじゃないのかもしれない)


(俺が核を覆っている「殻」の、ほんの少しの隙間から漏れ出る「何か」――それを、無意識のうちに感じ取っていたのか?)


(確かではない。でも、そう考えると、彼女のあの目つきが説明できる気がした)


(俺は、ずっと核を隠してきた。誰にも触れさせたくなかった。でも――同時に、誰かに見つけてほしかった)


(その矛盾を、彼女は無意識のうちに感じ取った。だから、追い続けた。5年間も)


(そして、晒した)


(それは、彼女の「業」だったのかもしれない。でも――それだけじゃない)


(俺の「見られたい」という欲求が、彼女を動かした側面もある)


(そう考えると、すべてがつながる)


(俺は、見られることを望んでいた。純は、それに応えた。ただそれだけのことだ)


(でも――その「ただそれだけ」が、俺たちの人生を変えた)


拓は、その夜、久しぶりに自分の裏アカウントの過去の投稿をスクロールした。


そこには、誰かに見てほしくて、でも見られるのが怖くて、その狭間で踠いていた自分の姿があった。


(これが、俺だ)


(恥ずかしい。でも――消せない)


(消したら、あの頃の自分が死ぬ気がする)


(そして――あの頃の自分がいたから、今の自分がいる)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ