第77話 核の窓 ―拓の内側― 第1話 核の芽生え
序
拓の「核」は、生まれ持ったものではなかった。
小学生の頃の小さな傷。中学のいじめで選んだ「関わらない」という沈黙。演劇サークルで知った「どんな自分にもなれる」という解放。裏アカウントで鍛えられた「誰にもバカにされたくない」という強固なコンプレックス。
そして、純の小説がすべてを曝したとき、彼はようやく一つのことに気づいた。
「わからないまま、そこにいる。それだけでいい」
この物語は、その「核」がどのように芽生え、ゆらぎ、成長し、開いていったかを、拓自身が静かに振り返る記録である。
同時に、娘・光莉が父の核を探す旅を通じて、自分自身の核と向き合う、もう一つの記録でもある。
父は核心には触れない。
娘は断片からしか感じ取れない。
それでも、二人の間に確かに何かが伝わる。
それが、この物語が描こうとする「継承」の形だ。
・小学三年生
図工の時間、隣の席の男が拓の作品を指さして笑った。
「それ、なに? へたくそ」。
他の子たちも釣られて笑った。
拓は何も言い返せなかった。
その夜、布団の中で長く考えた。
初めて「自分」と「他人」の間に線があることを知った。そして、その線の向こう側から、自分は笑われることがあるのだと知った。
・小学四年生
仲の良かった友達に嘘をつかれた。
約束の場所に行っても誰もいなかった。
翌日「嘘だよ、ごめん」と笑われた。
心の中で何かが冷めた。(自分は、この人たちにとって騙していい存在なんだ)
その頃から、拓は「比較」を徹底的に内省するようになった。あの子と自分は何が違うのか。僕は何が足りないのか。
いくら考えても答えは出なかった。
代わりに、ある感覚が芽生え始めた。
(比較しても答えは出ない。「僕は僕」――それだけでいい。それだけで十分だ)
この「核」は、まだ脆かった。でも、確かにそこにあった。
※『彼女の計画_外伝』影たちの物語をお読み頂くとより作品の深みを味わうことができます。




