第69話 彼女の継承者 プロローグ 『彼女の原点 』
光莉は、小さい頃から「わからない」が嫌いな子だった。
三歳の時、積み木を積んで遊んでいた。
何度も崩れる。崩れるたびに、光莉はどうして崩れたのかを考えた。底が歪んでいるのか。積み方が悪いのか。机が傾いているのか。
母は「またやればいいじゃない」と言った。
でも、光莉は納得できなかった。なぜ崩れたのか、わからなければ、また同じことを繰り返すだけだ。
父は、そんな光莉を遠くから見ていた。
何も言わなかった。ただ、見ていた。
小学二年生の時、光莉は図鑑で「なぜ空は青いのか」という説明を読んだ。光の散乱。波長の違い。言葉の意味はわからなかった。でも、その説明に「そういうことなのか」と納得した。
その時、光莉は思った。
(わかると、気持ちいい)
(わからないと、ずっとモヤモヤする)
(だから、わかるまで考えたい)
小学五年生の時、
クラスで飼っていたウサギが死んだ。
先生は「病気だったんだね」と言った。
それで話は終わりだった。
でも、光莉は納得できなかった。
本当に病気だったのか。
もし病気だったら、なぜ気づけなかったのか。何かできることはなかったのか。
光莉は、自分で調べ始めた。
図書館でウサギの病気についての本を借りた。獣医さんに聞きに行った。
家に帰ってからも、インターネットで調べた。
母は言った。
「もう終わったことなんだから、そんなに調べなくてもいいじゃない」
でも、光莉はやめられなかった。
わからないことがあるのに、そのままにしておくことができなかった。
一週間後、光莉は一つの結論に達した。
ウサギは「うっ血性心不全」という病気だった。早期発見が難しく、気づいた時には手遅れだった。何をしても助からなかったかもしれない。でも、それでも知りたかった。
父が、その時言った。
「光莉は、わかるまで考えるんだな」
「うん。わからないままにするのが、嫌なの」
父は少し笑った。
「そうか。」
それだけだった。
父は何も言わなかった。でも、その短い言葉に、光莉は認められたような気がした。
中学三年生になると、
光莉は将来について考え始めた。
何になりたいのか、どこに行きたいのか、わからなかった。でも、その「わからなさ」が、ずっと心の中に引っかかっていた。
(わからない。でも、わかるまで考えたい)
(それが、私のやり方だ)
その頃、光莉は、実家近くの図書館で『彼女の計画』という小説を手に取った。
そこに描かれていたのは、自分の父と母によく似た人物たちだった。でも、それは小説だ。作者は「純」という名前だった。
(お父さんとお母さんのこと、書いたんだ)
(でも、どうして書けたんだろう。本人たちに聞いたのかな。それとも、勝手に書いたのかな)
(もし勝手に書いたなら、それはお父さんたちを傷つけることにならないのかな)
光莉は、その小説を何度も読み返した。そして、思った。
(わからない。でも、わかるまで考えたい)
(いつか、この人に会って、聞いてみたい)




