第68話 彼女の傍観者―もう一つの視線― 第14話 前半最終章
康介は、窓の外を見ていた。
都会の夜景が、無数の光の粒となって広がっている。それぞれの光の下で、誰かが生きている。誰かを愛し、誰かを傷つけ、誰かに見つめられている。
この街のどこかに、瞳がいる。
今はもう、彼女のことは恨んでいない。でも、忘れたわけでもない。
あの男も、今ごろどこかで生きているのだろう。
どんな顔をして。どんな想いを抱えて。
――表の顔と、裏の顔と、その間で揺れながら。
康介は、自分にも「表」と「裏」があったことを思う。
会社では普通の社員だ。今の妻とは、それなりにうまくやっている。それが「表」。
あのアカウントで拓を呼び出したこと。純の鍵アカを覗いていたこと。それらは「裏」。
では、「真ん中」はどこにあったのか。
答えは出ない。
もしかしたら、なかったのかもしれない。
あるいは――この窓辺に立って、夜景を眺めている今この瞬間が、「真ん中」なのか。
誰にも見せない。でも、誰かに見られている気がする。
そんな、中途半端な場所。
彼は、スマホを手に取った。
瞳に送ったあのメッセージ。返信は来なかった。来るはずもない。
でも、なぜか削除できずにいる。
スクリーンショットを見る。あの日の自分が書いた言葉。
「さようなら、瞳。永遠に、あなたを見ている。」
気持ち悪い。自分でもそう思う。
でも、それが本当の気持ちだったのだ。
表でも裏でもない、その中間の、曖昧で、どうしようもない気持ち。
人間は、そういうものなのかもしれない。
どこかの部屋で、拓もまた、今夜も眠れずにいるかもしれない。
瞳も、何かを抱えて生きている。
そして、純も。
彼女もまた、何かを抱えて生きているのだろう。
それでいいのだ。
整わなくていい。
わからなくていい。
ただ、生きていくしかない。
康介は、もう一度窓の外を見た。
夜景は、変わらず広がっている。
その光のどこかに、あの日見た男がいる。
その光のどこかに、瞳がいる。
その光のどこかに、純がいる。
その光のどこかに、自分自身もいる。
夜が、深まっていく。
窓の外に、また誰かの視線を感じる。
それは、瞳かもしれない。
あるいは、拓かもしれない。
あるいは――彼自身の、もう一人の自分か。
あるいは、この物語をここまで見てきた、あなたか。
康介は、微笑んだ。
そして、カーテンを閉めた。
明日も、生きるのだ。
---【了】---
※これにて第6部、そして物語の前半戦が完結しました。
そして、
物語は20年の時を越え、次章69話『彼女の継承者』へと突入します。
次なる視線の先で、お会いしましょう。




