第55話 彼女の傍観者―もう一つの視線― 第1話 メモ
【プロローグ】窓の外
康介は、窓の外を見ていた。
都会の夜景が、無数の光の粒となって広がっている。それぞれの光の下で、誰かが生きている。誰かを愛し、誰かを傷つけ、誰かに見つめられている。
この街のどこかに、瞳がいる。
妻の瞳が、今も生きている
机の上には、小さなメモが置いてある。カフェのナプキンを切り取ったような、粗末な紙。そこには、見覚えのない文字で、こう書かれていた。
「stocking_night_0612」
彼はそのメモを手に取った。
どこで見つけたのか、覚えている。リビングのゴミ箱の横に、小さく丸めて落ちていた。瞳が何かをメモして、そのまま捨てようとしたのか。それとも、うっかり落としたのか。
康介はその時、深く考えずに拾い、机の上に置いた。
でも、その文字が頭から離れず——数日後、彼はスマホで検索していた。
それが、すべての始まりだった。
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第1章 メモ
そのメモを見つけたのは、瞳が離婚を切り出す、三ヶ月ほど前のことだ。
康介は、リビングで新聞を読んでいた。ふと足元を見ると、小さな紙片が落ちている。カフェのナプキンを切り取ったような、粗末な紙。そこには、ボールペンでこう書かれていた。
「stocking_night_0612」
何の番号だろう。電話番号にしては短い。パスワードにしては長い。
彼は特に気にせず、そのメモを机の上に置いた。
でも、その文字がなぜか頭に残った。
数日後、何気なくその文字をスマホで検索してみた。
すぐに見つかった。
あるSNSのアカウントだった。
そこには、見知らぬ誰かの日常が綴られている。全てが匿名だ。でも、投稿の内容から、少しずつ人物像が浮かび上がってくる。
· パンストフェチという性癖
· 短い文章で綴られる日常の断片
· 誰にも言えない孤独
· そして——時々現れる、ある女性への想い
康介はそのアカウントを、毎日のようにチェックするようになった。
最初はただの好奇心だった。でも、見続けるうちに、別の感情が芽生え始める。
「この人は、脆い。」
この匿名のアカウントの主は、常に「見られたい」という願望と、「見られることへの恐怖」が共存していた。自分を曝け出しながら、そのことで傷つくことを恐れている。
それは、康介自身にも覚えのある感情だった。
瞳に「見られていない」と感じていた日々。
自分という存在が、誰にも届いていないという虚無感。
「この人は、俺と同じだ。」
康介は、見知らぬこの匿名の男の中に、自分自身を重ねて見るようになった。
まだ、その人が「拓」だとは知らないまま。
※『彼女の計画_外伝』影たちの物語をお読み頂くとより作品の深みを味わうことができます。




