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第47話 彼女の選択 第4話 新しい日常

前回のお話、お読みいただきありがとうございます。まだまだ、話は展開していきます。

拓はフリーランスのライターに。瞳は別の会社に転職した。


最初は不安だった。でも、徐々に新しい日常が形作られていく。


朝、一緒にコーヒーを飲む。夜、それぞれの一日を話す。拓が机に向かって何かを書いている背中を見る。


その背中が、好きだ。


でも、時々、その背中を見ながら、別のことを考えている自分がいる。


――彼は今、何を書いているのだろう。もしかして、私たちのことを書いているのだろうか。また、誰かに読まれるのだろうか。


その疑念が、胸の奥で消えない。でも、口には出せない。出したら、また壊れる気がするから。


ある日、拓の新作が完成した。瞳は最初に読ませてもらう約束だった。


原稿を受け取り、一気に読んだ。そこには、ある女性の物語が書かれていた。離婚を決意するまで。新しい恋に迷いながらも、前に進もうとする女性の物語。


――私の話だ。


でも、どこか違う。拓が描く「瞳」は、実際の自分より優しくてピュア。濁りがない。

彼なりの「理想」が重なっているのか。


読んでいて、複雑な気持ちになった。


――彼は、私をこう見ているんだ。私の醜い部分を知らずに、こんなにきれいに書いている。


それが、愛おしいような、寂しいような。


読み終わった後、瞳は言った。


「すごくいいね。特に、この最後のシーン」


「本当か? 一番悩んだところなんだ」


拓は嬉しそうだった。


その笑顔を見ながら、瞳は思った。


――もし、私が本当のことを全部話したら、彼はこんな笑顔をしなくなるだろうか。


例えば、あの日記のこと。純への思い。誰にも言えない、あのノートのこと。


その夜、一人で風呂に入りながら、瞳は考える。


――ああ、あなたは、私の全部を知らないんだ。


裏アカを見つけた夜の震え。

「消して」と言いかけて飲み込んだ言葉。

「受け入れる」と言いながら、実は自分を守っていたこと。いや、むしろ利用しようとしていたことを。

それらを、拓は知らない。

これからも、おそらく知ることはない。


でも、それでいいのかもしれない。


だって、私も、あなたの全部を知らないから。


拓が純に「初めて」を打ち明けた時の気持ち。裏アカを続ける本当の理由。そして、彼がこの作品で描かなかった「私」の部分。それは、永遠に知り得ないものだ。


全部を知らなくても、一緒にいることはできる。全部を受け入れられなくても、隣にいることはできる。


でも、それは「妥協」なのか、「成熟」なのか。


瞳には、まだ分からなかった。


風呂から上がると、拓がコーヒーを淹れて待っていた。

「冷めないうちに」

「ありがとう」


コーヒーを飲みながら、窓の外を見る。街の灯りが、星のように広がっている。


翌朝、瞳は何気なく言った。

「ねえ、拓さん」


「ん?」


「次の作品は、何書くの?」


「まだ決めてない。でも、また三人のことを書くかもしれない」


「私たちのことを?」


「ああ。でも、今度は違う視点で」


瞳は、少し笑った。


「楽しみにしてる」


でも、心の中で別の声がした。


――あなたの描く「私」は、本当の私じゃない。でも、それでも私はあなたの隣にいる。そして、私もまた、あなたを「本当のあなた」として見ているわけではないのかもしれない。それでも、それが私たちなんだ。


それが、私の選んだ道だから。


窓の外で、太陽の光がまたたいていた。その光のどこかに、あのノートの行方がある気がした。

※『彼女の計画_外伝』影たちの物語をお読み頂くとより作品の深みを味わうことができます。

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