第42話 彼女の視線 第16話 空っぽのベンチ
前回のお話、お読みいただきありがとうございます。まだまだ、話は展開していきます。
その夜、拓と瞳は、久しぶりに二人きりで酒を飲んだ。
「すごい日々だったね」
瞳が言った。
「ああ。でも、終わったな」
「終わったわけじゃないよ。始まったんだ。新しい何かが」
拓は、瞳の手を握った。
「そうだな。大丈夫か? 会社の方は?」
瞳は、少し考えてから答えた。
「辞めるって言ったら、何人かが本当のことを言ってくれた。『噂になってたよ』って。でも、直接は言えなかったって。私、それを聞いて、少しだけ分かった気がした。人を傷つけるのは、直接的な言葉だけじゃない。何もしないこと、何も言わないことも、同じくらい人を傷つけるんだって」
「そうだな」
「でも、それも含めて、全部、受け入れようと思う。私が選んだ道だから」
拓は、頷いた。
窓の外では、変わらない夜景が広がっている。
拓は、スマホを取り出し、久しぶりに裏アカウントを開いた。投稿は、もう何年もしていない。でも、アカウントは残してある。
ふと、通知が来ているのに気づいた。
新着メッセージ。
送り主は、知らないアカウント。アイコンは、空っぽのベンチ。
――あのアイコンだ。
メッセージには、こう書かれていた。
「次は、どんな物語を見せてくれますか?」
拓は、しばらくそのメッセージを見つめた。
誰だ? 純か? 沙織か? それとも、全くの読者か?
あるいは――自分自身の、もう一人の自分か?
拓は、少し笑って、返信した。
「見せるんじゃない。一緒に生きるんだ」
送信ボタンを押す。
返事は、来なかった。
でも、それでいいと思った。
その夜、瞳が寝た後、拓は一人で起きていた。スマホを手に、あのメッセージをもう一度読む。
「次は、どんな物語を見せてくれますか?」
この問いかけは、読者からのものかもしれない。でも、それ以上に、自分自身への問いかけのように思えた。
――俺は、これからどんな物語を生きるんだ?
答えは、まだ出ていない。でも、それでいい。答えを探す旅が、人生なのだから。
窓の外で、星がまたたいていた。
※『彼女の計画_外伝』影たちの物語をお読み頂くとより作品の深みを味わうことができます。




