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第39話 彼女の視線 第13話 ―業の呪い―

前回のお話、お読みいただきありがとうございます。まだまだ、話は展開していきます。

出版から一週間後、純は小野寺に呼び出された。


「売れてるわよ。三万部突破。重版決定」


小野寺は、満足そうに笑った。


「でも、炎上してます。批判も多いです」


「それがいいのよ。批判は注目を呼ぶ。次の作品にも期待がかかる」


純は、小野寺の冷徹さに、少し恐怖を覚えた。


「私、この作品を書いて、本当に良かったんでしょうか?」


小野寺は、じっと純を見た。


「良いも悪いもない。あなたは、書かずにはいられなかったんでしょ? それで十分よ。表現者としての通過儀礼を、あなたは乗り越えた」


「通過儀礼?」


「そう。誰かを傷つけることを恐れていたら、本物の表現はできない。あなたは、その一歩を踏み出した」


小野寺は、少し間を置いて、窓の外を見た。


「私もね、若い頃、同じようなことをした。ある作家の赤裸々な告白を、センセーショナルに編集して、売り出した。その作家は、後に『あの本のせいで人生が壊れた』って言った。でも、本は売れた」


純は、初めて小野寺の目に「痛み」を見た。それは、過去の傷がまだ癒えていない証拠だった。


「……後悔してるんですか?」


小野寺は、純に向き直った。


「後悔? 毎日してるよ。あの作家の顔が、今でも夢に出る。『なんで私の人生を売り物にしたんだ』って責められる夢を」


「それでも、出版業を続けてるんですか?」


小野寺は、少し笑った。それは、自嘲的な笑顔だった。


「これしかできないからね。傷つけることを覚えても、辞められない。それが、私たちの業なんだよ」


「……後悔してるんですか?」


小野寺は、純に向き直った。


「後悔? さあね。でも、あの時傷つけた人の顔は、今でも忘れられない。あなたも、いつか忘れられなくなる。それが、表現者の業よ」


純は、その言葉を胸の奥で刻みながら、同時に思った。


――この人も、私と同じなんだ。傷つけることを知りながら、書かずにいられない。描かずにいられない。それが、呪いのように、私たちに取り憑いている。


そして、その呪いから逃れる方法は、ただ一つ。


――傷つけた人たちと、どう向き合うか。


その答えを、まだ誰も知らない。


※『彼女の計画_外伝』影たちの物語をお読み頂くとより作品の深みを味わうことができます。

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