第38話 彼女の視線 第12話 彼女の視線 ―絡みつく疑念―
前回のお話、お読みいただきありがとうございます。まだまだ、話は展開していきます。
出版後、反響は予想以上だった。
SNSでは、様々な意見が飛び交う。
肯定的な声:
「この小説、すごすぎる。不倫を美化してるんじゃなくて、人間の弱さを描いてる」
「自分の過去と重なった。私も誰かを傷つけたことがある。でも、それでも前に進もうとしてる」
「『観察者』の視点が斬新。自分も誰かに見られてるのかも、って思った」
「最後の合作シーンで泣けた。三人の絆が美しい」
批判的な声:
「不倫肯定かよ。人妻と不倫する男の気持ちなんて、知りたくもない」
「これ、実話なの? だったら、登場人物の人権はどうなってるんだ」
「作者は自分を正当化したいだけじゃないか?」
「帯に『実話』って書いてあるけど、どこまでが本当なんだ? 騙された気分」
中立的な声:
「真実かどうかより、フィクションとして読めば面白い」
「でも、これが実話だとしたら、書かれた側の心情が気になる」
「モデルになった人、特定されないといいけど……もうされてるのかな?」
さらに、過激なコメントも現れ始めた。
「作者、特定したぞ。『純』っていう名前のライターだ」
「あの出版社、不倫肯定本を出すなんて、社会的にどうなんだ」
「モデルになった会社、不倫許容してるって思われるぞ。抗議しよう」
だが、拓と瞳にとって本当に辛かったのは、こうした公の批判ではなかった。
職場の空気が、確実に変わったこと。
誰も直接は何も言わない。でも、明らかに何かが違う。
拓が出社すると、エレベーターで一緒になった同僚が、スマホをいじりながら一言も喋らない。会議で発言すると、妙な間が空く。昼休み、拓が席を外している間に、ひそひそ声がしていた気がする。
ある日、拓のデスクに、また一枚のメモが置かれていた。
「よく書けましたね」
ただそれだけ。差出人不明。褒められているのか、皮肉なのか、それすら分からない。
拓は、そのメモを握りつぶした。手が震えた。
瞳の職場も、同じだった。
同僚の一人が、瞳にだけメールのCCを入れなくなった。重要な会議の案内が、なぜか回ってこない。飲み会の写真がSNSに上がっているのに、誘われた記憶がない。
でも、誰も直接は何も言わない。
「これって、小説のせいなのかな」
「いや、ただの気のせいかも」
「でも、あの小説、確かにモデルがいるって噂だし……」
ひそひそ声が、聞こえるような聞こえないような距離で交わされる。
瞳は、トイレの個室で何度も泣いた。でも、誰にも言えなかった。
拓が、ある夜、瞳に言った。
「辞めようかと思う」
「何を?」
「会社。もう、あの空気に耐えられない」
瞳は、しばらく黙っていた。そして、静かに言った。
「私も。でも、逃げるみたいで嫌だ」
「逃げるんじゃない。選ぶんだ。自分たちの生き方を」
その夜、二人は初めて、会社を辞める選択肢を真剣に話し合った。
※『彼女の計画_外伝』影たちの物語をお読み頂くとより作品の深みを味わうことができます。




