第33話 彼女の視線 第7話 “やめたほうがいい”と言われた理由
前回のお話、お読みいただきありがとうございます。まだまだ、話は展開していきます。
連載は、さらに反響を呼んでいた。
フォロワーは七万人を超え、各話のいいねは三万を突破。出版社からも、何件か問い合わせがき始めていた。
ある日、沙織が純の部屋に来た。手には、プリントアウトされた小説の束。その表情は、いつになく硬い。
「純ちゃん、話がある」
「どうしたの?」
沙織は、深く息を吸った。
「『高木』と『美咲』のことなんだけど」
純の心臓が止まった。
「……何が?」
「私、イラストを描きながら気づいたの。この二人、前にカフェで会った人たちでしょ? あなたの元上司と、その恋人」
純は、何も言えなかった。
沈黙が、肯定だった。
「純ちゃん、私、怖いんだ」
沙織の声が、震えていた。
「何が?」
「このまま一緒に作品を作り続けたら、私も加害者になる。あなたの刃で、誰かを傷つける側に回る。それが、怖い」
純は、初めて沙織の目に恐怖を見た。それは、他人事の批判ではなく、自分事の恐怖だった。
「でも、私は――」
「書かずにいられないのは分かる。私も、描かずにいられないから。でもね、純ちゃん」
沙織は、純の目をまっすぐ見た。
「表現者の業と、人としての誠実さは、別なんだよ。今の純ちゃんは、その二つを混同してる。『書かずにいられない』ことを、『書いていい』ことだと思い込んでる」
純は、反論できなかった。図星だったから。
「私、しばらく距離を置く。純ちゃんが、自分の刃の重さに気づくまで」
「……ごめん、沙織」
涙が、こぼれ落ちた。
「私、どうしたらいいか、分からない。書かないと、自分が消えてしまいそうで怖い。でも、書くと、大切なものを失う気がする」
沙織は、優しく笑った。でも、その目は冷たかった。
「失うものを怖がるなら、書くな。書くなら、失う覚悟を持て。それが、表現者ってものだと思う。私は、純ちゃんがどっちを選ぶか、見てる」
沙織は、そう言って部屋を出て行った。
純は、一人残されて、しばらく動けなかった。
「失うものを怖がるなら、書くな。書くなら、失う覚悟を持て」
その言葉が、部屋中に反響していた。
それでも、純は書くことを止められなかった。
※『彼女の計画_外伝』影たちの物語をお読み頂くとより作品の深みを味わうことができます。




