5-2 聖剣解放
ホーウェンは混乱していた。
第四魔王の復活。そしてそれの討伐。
ここへきてわずか数か月。外界とのつながりは絶っていたため、
そんな大事件があったとは知らなかった。
第四魔王は自身の師が封じた魔王の中でも最も強大な魔王。
あれほどの化け物を目にしたことは今までになかったし、
もし復活して人類に敵対したのであれば、人類は間違いなく滅ぶそう確信していた。
もう頼りにしていた師はどこにもいないのだ。
彼女自身、そのときのための覚悟はしていたし、そのために準備もしていた。
その時が来ないことを祈りつつ…。
それが復活し、討伐されたという。
あまりに突然の告白の衝撃に頭がついていかない。
フィアという聖堂回境師が嘘をつくとは思えない。
何より理由がない。
確かに二か月前ぐらいに聖都コーレス方面で莫大な魔力は感知している。
復活の事実は本当だろう。
ただそれを差し引いても彼女はそれを信じられなかった。
というかその事実を認めたくないのかもしない。
真実はもう少しねじれているのだが、この時の彼女はそれを知ることはなかった。
「ホーウェンさん、そこをどいてもらえませんか?」
フィアは杖を握りしめ、ホーウェンに呼びかける。
「やめておけ。お前では…」
ホーウェンは少女の目にして息をのむ。そこには先ほどの少女の姿はない。
目の前にいるのは圧倒的なまでの存在感をもつ一人の魔女。
「これではまるで…」
その存在感にホーウェンは覚えがあった。
ホーウェンは無意識に自身が一歩後退していたのに気づく。
年端もいかない子供相手に自身が遅れをとることなどありえない。
「…二度は言いません。どいていもらえませんか?」
フィアの周囲に魔力が満ち、周囲に魔力を含んだ風が吹き荒れる。
それはまるで威圧するかのような圧倒的な魔力。
フィアは目の前のホーウェンを睨みつける。
「なるほどな。そういうことか」
ホーウェンが一人納得したのを見てもフィアは動じない。
少女の胸の内にあったのは、最優先されるべきは己の命よりもヴァロの命という信念。
ホーウェンに勝てないことはフィア自身理解はしている。
たとえ負けてここで死ぬことになろうとも、ヴァロのために戦って死ねるのならば本望。
その思いを持っての対峙。
「だがまだあなたはそれを使うべき時ではない」
フィアはホーウェンの言葉の意味がわからない。
「…安心して見ているといい。聖剣は契約者を見捨てない。その者の命運が尽きるまでな。
現に先ほど魔獣に吹き飛ばされたとき、ヴァロ殿は無傷だっただろう?」
ホーウェンの一言にフィアは表情をぴくりと動かした。
確かに最後にヴァロが魔獣に吹き飛ばされたとき、魔法式を書いていた衣服は吹き飛ばされていた。
つまり何らかの力が働いたことになる。
「どういうこと…?」
「あちらではもう決着がつきそうだぞ」
「ヴァロ」
フィアの表情に感情が戻る。
ヴァロとクラントが打ち合うこと十数合。
予想だにしないほどの猛攻。両手から繰り出される攻撃は早く重い。
ヴァロは素直に、この間合いの打ち合いで押されていることに驚きを覚えていた。
マールス騎士団の中でも、この間合いヴァロと打ち合える者は数えるほどしかいない。
それにこの間合いはヴァロが最も得意とする間合いである。
(この人魔剣なしでも…強い!)
ヴァロの持つ退魔の宝剣がヴァロの手から離れる。
クラントはヴァロを見下ろすように立っていた。
「騎士としてはなかなか。戦士としてはまだまだ」
クラントが剣を振り上げたそのとき、ヴァロの右手にないはずの剣の感触が現れる。
ヴァロはそれを見ることなく、左手で鉄芯を投げ背後に飛んだ。
クラントは一振りでその鉄芯をはじく。
「飛び道具か?諦めの悪い…」
クラントはヴァロが手放した退魔の宝剣の前に立ちふさがる。
クラントの視線の先には折れた聖剣を片手に持ったヴァロが立っていた。
「…契約していたのだったな」
折れた聖剣から白いオーラのようなもの立ち上っている。
ヴァロは力が剣にみなぎってくるのを感じていた。
(契約は完了した。お主を契約者として認めよう)
ヴァロは剣から語りかけられる声なき声を聞いたような気がした。
「カフルギリア」
聖剣の契約者となった今ならそれは幻聴ではないと断言できる。
ヴァロは目の前の敵に向けて構えをとる。
クラントは驚いていた。相手の持つのはただの折れた剣。
男はそれでもその剣の力を疑わない。
「力比べといこうじゃないか」
クラントは実に楽しげな笑みを浮かべ、二本の剣を鞘に仕舞う。
取り出したのは一本の魔剣。刀身からどす黒いオーラのようなものが立ち上る。
他の魔剣とは違う、どこかまがまがしい装飾が施されている。
あきらかに他の魔剣とは一線を画す存在。
「『呪剣』ジャダルカ。これは俺のとっておきだ」
ヴァロはその剣の名を聞いたことがある。
それは小国の内乱で用いられた呪われた魔剣。
あまりの力ゆえに、敵はおろか味方の軍にまで甚大な被害をもたらしたと聞いている。
その危険性ゆえに封印指定されているという、いわくつきの代物だ。
「本当になんでもありだな、あんた」
ヴァロは呆れたように声を出した。
「聖剣の契約者に言われたくはない」
「だな」
ヴァロとクラントの顔には笑みがあった。
「それじゃ、仕舞うか」
「ええ」
お互いに晴れ晴れとした顔で向き合い走り出す。
そして、お互いの渾身を込めた一撃が交差する。
聖剣の一撃に大地が鳴動する。
それは聖剣の持つ本来の力。
圧倒的なまでのその力は光とともに森を蹂躙していった。
地面は聖剣の一撃によってえぐられ、木々は根っこごとその場に散乱している。
一番驚いたのはその力を行使したヴァロ本人だろう。
ヴァロは一撃で地形を変えてしまうほどのその破壊力に、驚くほかなかった。
「折れても聖剣か…」
血まみれになりながらもクラントに意識を保っていた。
他の魔剣がとっさに回避行動をしてなければ、今の一撃でクラントは跡形もなく消滅していただろう。
そう確信できるほどの一撃。それは聖剣の本来の力。
「この勝負、俺の勝ちです」
クラントの首筋に折れた聖剣が当てられる。そう言い放つヴァロも満身創痍だ。
既に勝者の姿とは言えない。
「お前の勝ちだ、好きにしろ」
そういうクラントの顔は満足気だった。
クラントは何か憑き物が落ちたような顔をしていた。こちらがこの男の素の顔なのかもしれない。
ヴァロは剣を収め、反転し、その場を去ろうとする。
「いいのか?次は後ろからぶっすりいくかもしれないぜ」
クラントの目が鋭く光る。
「次はお互いただの剣士として」
剣を交えたからこそわかることもある。
この男も根は自分と同類だ。
「とんだお人よしだな」
口では悪態をついてはいるもののそれに反し、クラントの口元は緩んでいる。
こうして勝負の決着はついたのだった。
実はドーラは作中最強に近いです。
最近では面白キャラになりつつありますがw
カーナとの出会いとかも書きかけあるんだけど…壮大なネタバレ含むからなぁ。
ちなみに彼の就職を絡めて書いてます。クファトスとの再会とかね。
いつかは出すかもw
ちょっと流れ的にリオを出せないのが残念。
あとで個人ストーリーかけたらいいなとか思ってみたり。




