4-4 聖剣破壊
怪物は体に張り付く異物を振り払おうと体を捻らせる。
ヴァロは暴れ狂う怪物をどうにかしがみついていた。
腕の関節が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。
暴れ馬なら何度か相手をしたことがあるが、これはそんなレベルではない。
まるで暴風そのもの。
すでにヴァロの服にホーウェンが描いた魔法式も消えかけている。
事実上これが聖剣に触れることのできる最後のチャンス。
「応えろ聖剣カフルギリア」
ヴァロは振りほどこうとする魔獣から離れまいと必死にしがみつきながら叫ぶ。
ヴァロの服にホーウェンがかけた魔法式も次第に光を失いつつある。
もしこのまま木に打ち付けられれば重傷は免れない。
ヴァロを振りほどけないことを魔獣は悟ったのか今度は結界に直接触れてきた。
結界の軋む音が聞こえる。
服に描かれたルーン文字の光が失われていくのがわかる。。
もはやこの結界が破られるのも時間の問題に思われたその時、
ヴァロはホーウェンから託された札のことを思い出す。
作戦の始まる直前ヴァロはホーウェンに話しかけられる。
「服に私が描いた魔法式の起動呪文は覚えたか?」
ヴァロは頷く。
「いい心がけだ。その呪文は間違ってもその時が来るまで唱えるな。
結界に干渉する恐れがある。もしそうなった場合、作戦は変更せざる負えなくなる」
ホーウェンはヴァロの胸をコツリと叩き、反転しその場から立ち去ろうとするが、
何かを思い出したかのようにまたヴァロのもとに戻ってきた。
「そうだ。それはもしもの時のことを考えコレを渡しておく。手段がない場合一度だけ使える。
正直あまり気乗りしない方法だ。使う機会が来ないことを祈るよ。解放呪文は…」
ヴァロがその言葉を発すると、ポケットにある札が破れ、ヴァロの周囲が閃光で包まれる。
ヴァロを中心にした捕らえていた魔物の両手が腕ごと炭化する。
「なんてことを…」
フィアは信じられないものを見るような面持ちでそれを見ていた。
その方法に思い至ってはいた。魔法抵抗力の高いヴァロに魔法札を持たせて特攻させる。
ヴァロならば大概の魔法が生み出す殺戮空間から無傷で生還できる。
特定の標的を狙うのにこれほど効率的な方法はない。
ただ知っているのと実行するのは違う。
それは断じてやってはならない外道の方法だ。
さらに使った魔法がヴァロの魔法抵抗の上限を越えているのならば、ヴァロ自身も無事ではすまない。
それは自爆魔法にも通じる行為なのだ。
フィアは上空に待機しているホーウェンを睨む。
「恨まれる覚悟はしているさ」
フィアの視線に応えるよう、ホーウェンはつぶやく。
ヴァロを包み込む光は収束しつつあった。
結果をみればヴァロ自身は高い魔力抵抗のため傷を負うことはなかった。
上半身に着ていたルーン文字が入った衣服は今ので吹き飛んでしまった。
もし次に魔獣に吹き飛ばされたなら大けがを負ってしまうだろう。
ヴァロは自身の指を切り、聖剣の核に血をつける。
「聖剣カフルギリアに命ずる。我を契約者として認めよ」
ヴァロの叫びに呼応するかのように聖剣は光を発した。
視界が白に包まれる。
先ほどの魔法の光とは違うまた別の優しい光。
そこには聖職者の恰好をした一人の男が立っていた。
「お待ちしておりました」
男は深く頭を下げた。
「あんたが管理者か」
その男の雰囲気はどこか静謐さを感じさせる。
「…私は何年眠っていたのでしょう」
「あんたが最後に経験した戦争は第二次魔王戦争と呼ばれてる。…もう三百年以上も昔の話だ」
ヴァロは事実を伝えた。
「人がここにこれたということは人類は滅亡から免れたということですか…。コーレスは今でも存在してますか?」
「無事だよ。コーレスはこの三百年以上の間魔物の侵攻を許していない。
それどころかこの大陸一二を争うほど繁栄しているよ」
あくまで公式にはだ。この間の聖都事変は数に入れてない。
「そうですか…」
男は心の底から安堵した表情を浮かべた。
「…あんたを救いたいという女性がいる。俺はそれに協力している」
「そんなお方が…ありがたいことです。もうすでにこの魔獣と同化が始まっている。
魔獣に流入する力をもはや私にはどうにもできない。
聖剣の力を吸ってこの魔獣が災厄となる前に、どうか私ごと聖剣を葬ってもらいたい」
ヴァロは頷いた。もとよりそのつもりだ。
「契約する代わりといっては何ですが…一つ頼まれていただけないでしょうか。
聖都コーレスの北西に小さな孤児院があります。私が人間だったころに親のない子供たちを世話した場所です。
もし…よろしければそこへ私を連れて行ってはもらえませんか?」
男の言葉にヴァロは難しい表情を浮かべた。
「約束するよ。ただしもう三百年以上も昔の話だ。もうその孤児院はなくなっているかもしれないし、
残酷な現実を突きつけられるかもしれない。それでもあんたはいいのか?」
「…かまいません。…感謝します」
男は深々とお辞儀をした。その姿はヴァロにどことなくホーウェンを連想させた。
「一つ聞いていいか?あんたの人間だったころの名前は?」
ヴァロは振り返り、聖剣の管理者に問う。
「私の名前は…」
ヴァロは再び目を開く。
魔獣はヴァロのはるか前方にいる。
魔獣からまた吹き飛ばされたらしい。
上半身に着ていた服は消滅いるものの、目立った外傷はない。
体の節々がところどころ痛んだ。
ただ先ほどと違うのはヴァロの手には折れた聖剣が握られていることだ。
左腕には契約者特有のタトゥが刻まれていた。
どうやら無事(?)に聖剣カフルギリアとの契約が済んだらしい。
ヴァロは折れた聖剣を見せつけるように空に向けてにかざす。
周囲の目がヴァロの右手にある剣に向けられる。
「あいつ、本当に…」
まぎれもなくそれは聖剣だった。
「ヴァロ」
フィアは瞳に涙を溜めてそれを見ていた。
それはヴァロに対する安堵の涙だろう。
上空で待機していたホーウェンが、その光景を見て口元を緩ませた。
「よくやった」
ホーウェンのその一言を皮切りに、扱う魔法式の構成が上空で輝きだす。
魔法式が時計回りに光を宿し、光を強めていく。
ホーウェンの式は上空に緻密で荘厳な幾何学的な模様が輝きを増していく。
「魔法干渉による相乗作用を利用しているの?幾らなんでも無茶苦茶よ」
フィアは魔法式を見るや否や、声をはり上げた。
魔法干渉は力場が不安定になるために、あまり使われない。
それは間違えれば暴走必須の危険な手段になるためだ。
空全体を覆い尽くすほどの魔法式が暴走すれば、どれほどの被害が出るかわからない。
ただそれは現実のものとは思えないほどの美しさで空を覆い尽くした。
「消え去れ」
ホーウェンの叫びと同時に、光が魔物を包んでいく。
それは目に焼き付きを起こしてもおかしくないほどの光の量。
先ほどヴァロを包んだ光ですらその光の前では霞むほど。
その場にいただれもが目を覆う。
音はない。ただとてつもない量の光のみがその場を支配した。
ヴァロが目を開くと、魔獣のいた場所には巨大な穴が残されていた。
魔獣のいた場所の地面が蒸発したのだろう。
でたらめともいえる魔法だ。
ヴァロはおそるおそる近寄り、その穴をのぞいてみる。
それはまるで奈落へつながると思えるほどに深かった。
幾ら自身が魔法抵抗に秀でようともこれほどのものに耐えきれる自信はない。
あまりに巨大で圧倒的な何か。
ヴァロは魔法を心の底から怖いと思った。
いよいよこの話も大詰め。
やっぱ小説は書いてて楽しいや。職業にできたら人生面白いだろうな。
才能ないんで無理っすw
この作品、完全に趣味の暴走の産物ですよw
ので誤字脱字はご容赦ください。
もし読んでくれる人がいて、評価していただけるのであれば嬉しいです。




