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聖剣破壊  作者: 上総海椰
12/22

3-4 魔剣の化身

「今回の件本当にすまなかった」

ホーウェンは住処に着くなり、ヴァロに頭を下げた。

いきなりの謝罪にヴァロとフィアは戸惑う。

「ヴァロ殿の服も直させてもらった。明日の朝にはここを立ってもらえるか?」

ホーウェンはヴァロの前に直した服を差し出した。

「それならなぜ俺たちをあの場所まで連れて行った?」

「魔獣が眠っているうちに聖剣を引き抜ければと期待した。

聖剣は魔力を持ったモノを拒絶するように造られているのでね。

契約者がいないため、私では触れることすらできない。

そこで魔力を有しないヴァロ殿ならば聖剣を引き抜けるかもしれないと思った」

聖剣がある限りあの魔獣は再生し続ける。

逆に言えば聖剣を引き抜いてしまえば再生はできなくなることだ。

「ところが目覚めてしまったと?」

「ああ、少しの衝撃でも起きないぐらい、深く深く眠らせていたつもりだったのだがな」

「…あんたら二人であの魔獣を倒すつもりか?」

「…ああそうだ。もともと私の不手際で巻き込まれたものだしな。

できれば他言無用で頼む。例の魔獣は私たち二人でどうにかしよう」

ホーウェンはすまなそうに言葉を続ける。

ヴァロとフィアは顔を見合わせた。

「事情はお話してくれますか?」

フィアの問いにホーウェンはクラントを一瞥する。

クラントは変わらず関係なさそうな素振りで部屋の脇に座っている。

「わかった。こうなっては彼らも関係者だ。情報は可能な限り話すよ」

クラントは不満気にホーウェンを見据える。

「ホーウェンさんの目的は?」

「ここの平原一帯の調査。第二次魔王戦争の痕跡を探っていた」

「どうしてそんなことを」

「ただの興味さ。結社の本部は北に集中しているし、ここは聖都が近い。

警戒してか、調査団はあまり大きな成果はあげられていなかった」

聖都コーレスには聖カルヴィーナ聖装隊が本部を置く。

名には女神の名前を冠し、聖剣使いミオリスが率い、魔王戦を目的とした教皇直下の部隊。

教会でも最精鋭とされる十二人の魔剣使いで構成されるという。

少ない人数ながら、その戦力は『狩人』を越えるとまで噂されており、

一国を一夜で滅ぼせるほどの力を有しているという。

ただし、聖堂回境師、狩人とは不仲であるとは聞いている。

おそらく正装隊を警戒して満足な調査ができなかったのだろう。

ちなみに前回聖都事変が起こっていた際には聖都にはほぼ不在だったようだ。

ウルヒが後ろで手を回していたらしい。

「あわよくばその当時使われていた武器、魔器を掘り起こせるかもと考えていた」

「それで聖剣を掘り当てたと?」

「ああ、その通りだ。聖剣を掘り当てたのは全くの偶然だよ…いや運がよかったというべきかな?

森の奥で強い魔力を感知したんだ」

「それが見つけられた理由?」

「大方聖剣の力が弱まって、魔獣が発する魔力が漏れ出し始めていたのだろうな。

今まで調査団が発見できなかったのは聖剣が魔獣の力を抑えていたためだろう。

四百年たってさすがの聖剣もあの魔獣と同化が始まっていたようだ」

フィアはその言葉に違和感のようなものを覚える。

「少しいいか?」

遮るようにクラントがホーウェンに声をかける。

「何だ?」

「リオの奴がしゃべりたがっているみたいなんだが?」

ホーウェンはしばらく何やら考え込む。

「…当人から直接事情を聞いたほうがわかりやすいか」

ヴァロとフィアをよそに二人は何やら合意したようすだ。

そう言って男は一本の剣をホーウェンに差し出す。

ヴァロにはその魔剣に見覚えがあった。

(ラルブリーア。一千の魔物を討伐した英雄が契約していたとされる魔剣。北方の地で紛失した魔剣という話だが…)

ホーウェンはクラントから渡された魔剣に手を当てる。

ホーウェンが指を鳴らすと、クラントの前に一人の少女が姿を現す。

歳はフィアと同じかそれよりも若いくらい。

その少女の身なりは何かの儀式用の服であり、どこか幼さの中に静謐な雰囲気を醸し出していた。

「人が…」

「ただの幻だ。普段は契約者にしか姿をみることはできないが、私の光学魔法で一般の人間にも姿を見せられるように調整した」

ホーウェンは当然のごとくそんなことを言い放つ。

それがとてつもなく高度な魔法だと知るのはヴァロが知るのはもう少し後の話だ。

「はじめましてフィアさん、ヴァロさん私の名はリオといいます。もともと祭事を奉る巫女でした」

少女はぺこりとお辞儀をする。

「魔剣の契約者にだけにしか見えない姿。

もっとも契約したところで見れるかどうかは契約者の力量次第。

契約しても眠ったまま使う者もいれば、既に意識がないものや、契約者に姿を見せないものもいる。

ただ大概の契約者は幻聴扱いされるからその存在を黙っている傾向にあるがな」

クラントの言葉に不意にミランダの言葉を思い出す。

剣に人格のようなものを感じたことはあるか?

ひょっとしたら彼女も何か感じていたのかもしれない。

「魔剣も生きているのか?」

少女の姿を見てヴァロはふと湧いた疑問を口にしてみる。

「違うな。かつては生きていたんだよ。リオは魔剣を作る儀式で核になった人間の女性だ。

リオというのも人間だったころの名前だ」

「何を言っているんだ?それではまるで魔剣が…」

「そうだ。魔剣というのは人の命を使って作り出されたものだ。

この剣だけでも数百の人間が元になってる。もっとも意識を保てるのは核になった一人だけだ。

我々はその一人を管理者と呼んでいる」

あまりに驚愕の答えにヴァロは絶句した。

「そんな…そんなことが…」

フィアの言葉を思い出し、フィアの方を振り向くが彼女もどうやらそのことは知っていたらしい。

ヴァロの視線に軽くうなずいた。

彼女のいくつかの問いかけもこれで納得できた

調律を行うのだから知っていても当たり前ともいえる。

「付け加えるなら魔剣というのは聖剣が生まれる過程で作られたものだ」

「聖剣も…」

「聖剣というのは魔剣の中でも多くの人間を犠牲にして作られました。

聖剣とよばれるものには万単位の命が使われています。現存している聖剣が少ないのはそのためです」

「…そんなことが許されるわけがない」

明らかに常軌を逸している。一つの武器を手に入れるために万の人の犠牲を必要とするなど。

騎士であるヴァロにはそれは断じて容認できないもの、してはいけないものだ。

「もともとジグントが人類の口減らしのために行ったことです。

あの頃は人類の支配域が魔王によって著しく減っていて、

避難してきた難民を養うだけの土地が圧倒的に不足していたのです」

「それでも」

ヴァロはいいかけて言葉を飲み込む。

「第二次魔王戦争後、聖剣は作られていません。作らなかったんじゃない、作れなかったのです。

魔王戦争直後、人類の人口は大幅に減少したため、長い戦争により荒廃した土地を元に戻すために

労働力として需要があったのです。

さらにその後何度か魔王認定者はこの世に幾度も生み出されますが、第二次魔王戦争のような人類未曽有の危機は

三人の大魔女たちによって回避されてきました。

そして、彼女たちの作る体制の下、聖剣は製造を禁止され今に至ります。、

そして聖剣の製法は教会の地下深くに封印され、現存する聖剣は厳重に保管されることになったのです」

淡々と語られる事実にヴァロは常識という足場が崩壊していくような感覚を覚える。

「それじゃ…聖剣っていうのは…」

「ただの人間の成れの果て」

ヴァロの問いにホーウェンが感情なくその言葉を口にする。

「…あんたは…それでいいのか?」

目の前の少女にヴァロは吐き出すように問う。

「…フフ、優しい人。けれど私たちの生まれた時代はそうするしか選択肢がなかったのです」

どこかあきらめたように微笑む彼女にヴァロの心は痛んだ。

それが痛々しくヴァロは目をそむける。

この少女は魔剣として三百年も存在してきたのだ。

「けれどそれじゃ、あまりにも…」

救われないという言葉をヴァロは飲み込み、その場を後にする。

「ヴァロ」

フィアがヴァロの後を追いかけようとするがホーウェンがフィアの肩をつかむ。

「一人にしてといてやれ、一度にいろいろなことを聞いて心の整理ができないんだろう」

フィアは少し考えた後、ホーウェンの言葉に従いその場に残る。

「フィアさん、少しよろしいですか?」

「何?」

フィアも魔剣と話すのは初めての経験である。

「あなたも契約者なのですか?」

「わかるの?」

フィアは同世代の齢の容姿の魔剣に対して、少し身近に感じていた。

「私も魔剣の端くれです。そのぐらいは…」

「少し見せてもらってもよろしいでしょうか?」

魔剣に自身の武器を見せるのは少し複雑な気分だ。

フィアが光とともに杖を現出させる。

彼女が所有する彼女のための武器。

所有者であるフィアですら、その杖の能力がどれほどのものか知らない。

「…」

しばらくリオはその杖をじっくりと見つめていた。

「何かわかるか?」

ホーウェンはリオにささやく。

「工法が違いますね。私たちとは全くの別のもの。…これは私たちではどういうものか理解できません。

ただこの杖からは私たちとは違う異質な波動を感じます。

推測ですがこの存在が刺激になって聖剣カフルギリアが動き出したのではないかと…」

「なるほどな。魔獣が眠りから覚めたのは、その杖が原因だったか。しかし異なる工法とは一体…」

クラントのその問いにリオは少し考える素振りをする。

「私たちよりエアリアに近い感じがします」

「エアリア…というとあの神槍エアリアのことか?」

魔術王が代々継承している神槍エアリア。無二にして最強、絶大にして至高の武器。

現在大陸に現存する武器の中では最強とまで言われている。

元は幻獣王フィンリギから初代魔術王が託された牙。それを三代かけて鍛えたものだという。

その一撃は山すら消し飛ばすといわれ、その力をもって魔術王が極北の地を治めているという。

「…リオはそれをみたのか?」

「ええ。以前遠目からですが。クラントが私のわがままを聞いてくれて」

「魔剣想いだな」

意地の悪い笑みを浮かべながら、ホーウェンはクラントを見る。

「茶化すなよ」

クラントはおもむろに立ち上がる。

「どうもここは居心地が悪い。そいつはここに置いていく。俺は夜風にでもあたってくる」


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