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聖剣破壊  作者: 上総海椰
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3-3 四つの魔剣を持つ男

ヴァロは一定の距離を維持しながら、魔獣の注意をひきつけていた。

懐に入り過ぎると相手に捕まえられてしまうことも考えられるために警戒していた。

魔獣の動きは大振りながらもどこか単調で、人のカタチをしているため容易に動きの予測がついた。

(かなり早いだが冷静に対応すれば、対応できないわけじゃない。時間稼ぎだけなら…)

そうヴァロが思ったのも当然のことである。

ヴァロも魔獣相手は初めてではない。さらに魔王とも対峙している。

魔獣の振り下ろした拳が地面に当たり、轟音と共に陥没する。

それを見てヴァロは背筋が凍った。

(…撤回。まともにくらったら即死ものだ。フィアの魔法壁も何処までもつかわからない。

回避しても、衝撃波、それによる小石等で致命傷になる。…どうにもならないものは、フィアの魔法壁に頼るしかないな)

魔獣の持つ拳に囚われそうになるも魔獣の手が不自然に上に逸れる。

フィアの魔法壁の効果が受けるのではなく逸らすもの。ならば多少の無茶は大丈夫だろう。

「少し試してみるか」

ヴァロは剣を持つ手に力を込めた。


「…揚力制御…なかなか」

ホーウェンは石碑に手を当てながら、戦の経緯を観察していた。

ヴァロという『狩人』は魔獣の攻撃を紙一重で交わしている。

一歩間違えれば即死ものの攻撃をだ。

そのおかげでフィアの展開する魔法壁もそれほど消耗していない。

思い返せば昼間の遭遇戦の時の対応もなかなかだった。

二人とも若いながら場数は踏んでいる。

彼女にとってそれは嬉しい誤算だった。

「…だが、決め手に欠ける」


ヴァロは魔獣の隙を見て右腕に一撃を叩き込むが、表皮に剣をはじかれる。

(…堅い、まるで分厚い石のようだ。表皮にすら傷すらつけられないのか?)

ヴァロの持つ剣は退魔の宝剣という魔力を斬るための剣だ。

魔法や魔法生物など実態のないものは斬れたとしても、ただの岩などは斬ることは困難である。

目の前にあるのは巨大な物理現象。魔獣の攻撃はまさに吹き荒れる暴風そのもの。

拳を地面に叩きつけたときの衝撃波や小石等でも傷を負いかねない。

ヴァロ自身がいくら魔法抵抗力が大きかろうと、巨大な物理現象の前ではただの人に過ぎない。

木々が根元から吹き飛び、ヴァロの倍ほどある岩が宙を舞う。

そんな暴風の吹き荒れる中で、ヴァロは自分の身長の二倍はあろう魔獣の猛攻を凌いでいた。

フィアの防御魔法により、飛んでくる石や木からはどうにか身は守られていて無傷ではいる。

「まだか?」

ものすごい風切り音がヴァロのそばをかすめていく。

生身ならばかすっただけで、そのかすった部位が吹き飛んでいてもおかしくはない。

並の騎士ならば対峙しただけでも失神しかねないもの。

一撃一撃に自身の寿命を削り取られているような錯覚すら覚える。

ホーウェンは注意をひきつけてほしいといった

水が湯に変わるまでの時間ほども経ってはいないだろうが、

その時間はヴァロにとって一時間にも一日にも長く感じた。


ヴァロが魔獣の両手に捕まる。

光の膜がぎりぎりと軋む音を立てる。

魔獣の絶え間ない攻撃にフィアの魔法が少しづつ弱まってきたのだろう。

「だめ…魔法を保てない」

みるみるうちにヴァロを包む膜に亀裂が入っていく。

魔法壁が破壊されるということはヴァロの死を意味する。

相手は暴風そのもの、人間をひねりつぶすことなど容易だろう。

フィアはそれを知っているため、魔法壁の維持に必死だ。

そんな中ヴァロは魔獣の両腕から逃れる手段を探る。


膠着状態の中変化は突然やってきた。


ドサッ


それは魔獣の両腕が地面に落ちる音だ。

二の腕から切り落とされていた。

当の魔獣は何が起こったのかわからなかったようだ。

我に返ったのはヴァロのほうが早かった。すぐさま魔獣と距離をとる。

その直後魔獣の叫び声が周囲に轟いた。

「間に合ったか」

ホーウェンの口元が緩んだ。


胸にある聖剣が光を放ったかと思えば、魔獣の右腕が再生されていく。

「…回復?カフルギリアの力か…」

ヴァロの脇で声が聞こえてくる。

声のほうに視線を向けると両手に剣を持った男が魔獣を見据えていた。

そしてそれが今魔獣の右腕を切断した本人だとすぐに察した。

年齢はヴァロよりも一回り上だろうか。

驚いたように男はつぶやく。

「助かりました」

「礼は全部済んだ後だ」

男は剣を構え、魔獣を見据えている。

さらに魔獣の肩から左右両方から腕が生える。

「おいおい、それは幾らなんでも反則だろうが」

男は驚愕の声を上げる。

いつの間にかヴァロの周囲を包む膜が再生されている。

フィアがもう一度魔法を再構築したようだ。

フィアに目をやると明らかに消耗しているのがわかる。

魔獣はこちらを見据えると咆哮を上げた。

さきほどとは違う、明らかに興奮している。

口から魔力の光があふれ出てきている。計り知れないぐらいの攻撃が来るのは容易に予想がついた。

「やばいな」

男はそう言って後ずさった。もはや石碑を守るとか言っていられない。

魔獣の正面にいるヴァロたちには回避は困難だろう。

幾ら魔法抵抗力が高くても防ぎきれる確証はないのだ。

そんな中、不意に魔獣の動きが止まる。

魔獣は膝を折るとその場に眠り込んだ。

四つの石碑が目も眩むほどの光を放っている。

「…どうやら終わったな」

男の一言に安堵し、ヴァロの隣の男は剣を鞘に納めた。


ヴァロと男が結界から抜け出すとそこにはホーウェンが立っていた。

「ヴァロ殿、フィア殿、巻き込んでしまって本当にすまない」

ホーウェンはそう言ってすまなそうに頭を下げた。

「俺に対する感謝は?」

「ずいぶん道草をしていたみたいじゃないか?頼んでいたものはもってきてくれたのか?」

ヴァロが口にするよりも早くホーウェンが男に問いかける。

「そこの木の影に放り投げてあるよ。たく、来てみたらいきなり戦闘だ。

だいたいあんたの指定する場所が広すぎるんだ。

魔獣の咆哮が聞こえなかったら、まだ見つけられていないぞ」

よほど腹に据えかねたのか男はホーウェンを見るなりまくしたてた。

「それは悪かった。街道沿いに待っていたのだがな」

昼間ホーウェンが街道にいた理由はこの男を待っていたためのようだ。

「…聖剣が見つかったと聞いて駆けつけてみれば…すでに聖剣と呼べる代物ではないぞあれは」

眠っている魔獣に視線を向けながらクラントがぼやく。

「ああ、起こしてみたらああなった。

どうにか私の結界で眠らせたが、動き出すのも時間の問題だろう」

「…聖剣の破壊は骨が折れるな。調律だけでは割にあわない」

「そこは昔からのつけで頼むよ」

ホーウェンはばつの悪い笑顔を浮かべる。

「…あんたに借りを作るものではないな」

クラントと呼ばれる男は観念したように肩を落とし、嘆息した。

「そこの二人は?」

クラントはこちらに視線を投げた。

「ああそうだ、紹介しよう。こいつの名前は変態魔剣愛好家クラント。要は魔剣集めが趣味のただのマニアだ」

顔には無精ひげのようなものをはやしているものの、どこか鋭さを感じさせる。

全身には布を巻きつけ、異国めいた服装。

男の両脇に二本、背中に二本の剣が差してある。

ヴァロはクラントという名を思い出す。

多重魔剣契約者クラント。

ヴァロの記憶違いでなければ『狩人』の指名手配リストに載っていたほど人物であり、

長年『狩人』や北方の国々からの追跡から逃れているという。

なんでも元は北方の英雄だったのだが、十年前に北の国から魔剣を持って逃走。

追手を振り切り、行方をくらましたという話だ。

彼に多額の賞金がかけているという話も聞く。

「あんたの頼みを聞いてきてやったのに後回しの上にその言いぐさかよ」

半眼でクラントと呼ばれた男は不満をこぼすが、ホーウェンは無視して紹介を続ける。

「『狩人』のヴァロさんとフゲンガルデンの聖堂回境師のフィアさん。

クラントはヴァロという名前に少しだけ反応したように見えた。

「『狩人』のヴァロ…」

クラントは驚いた様子でヴァロを見る。

「知っているのか?」

意外そうにホーウェン。

「ちょっとした有名人だからな」

聖都の一件のことだろうか。思い当たることが少しあるが、あえて追求しないほうがいいだろう。

「ヴァロ殿とはちょっとしたきっかけで知り合った。ここにいるのは私のほうから助力を頼んだためだ」

「…『狩人』…背中を預けられる相手だとは思えんがな」

クラントの周囲の空気には独特の緊張感が漂う。修羅場をくぐってきた人間特有のそれだ。

「ここはお互いに私に免じて剣を引いてはもらえまいか?」

「…他ならぬあんたの頼みだ。ここは引いておく」

クラントはしぶしぶ承諾する。

クラントの周りの空気が少しだけ軽くなった気がした。

「ヴァロ殿もよろしいか?」

「ああ、構わない」

そもそも今のヴァロの任務はフィアの護衛である。

無駄な戦闘は極力回避したかったし、任務のことを考えるのならそれが最善だろう。

それに先ほどの魔剣による攻撃は見事なものだった。もし戦闘になったとしても勝てるとは思えない。

敵対するならともかく、味方になってくれるならこれほど心強いものもないだろう。

「こんなところで立ち話もなんだ。家にもどろうじゃないか」

ホーウェンの提案で一行は彼女の住処まで戻ることになった。


いろいろあって遅くなりましたが、投稿できました。

さてはよう聖剣破壊編を仕上げて、魔軍来襲篇に入りたいなあ。


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