3-2 巨大なもの
聖剣カフルギリア。
三百年前に作られたとされる七本あった聖剣のうち一本。
現存するものは四本とされ、三本は失われている。
その力は国家戦力に相当し、魔王戦争において人類が持つ最強最後の切り札。
ただあまりに強力なその力を人々はおそれ、魔王戦争後教会が厳重に封印しているという。
ヴァロもおとぎ話でよく聞いている。
聖剣は騎士である者ならば一度は夢見る武器。
あれは第二次魔王戦争の際に失われたという話だ。
だが、ホーウェンは目の前にあるのはそれだといった。
ここは第二次魔王戦争時の戦場だ。存在したとしても不思議はない。
「それはそうだが…」
ヴァロは目の前の聖剣を凝視する。
そこにあるのは幼いころ何度も図鑑でみた聖剣それだ。
「…本当に聖剣なのか?」
ヴァロはフィアに問う。
「ソレの魔力の保有量は魔剣を大きく超えている。
実物を見たことがないから断定はできないけれど、聖剣である可能性は高いわ」
フィアがそういうのなら本物の聖剣なのかもしれない。
「…長い間魔物に突き刺さっていたため、魔獣との同化が始まっている。
同化してしまう前にケリをつけないと聖剣の力をもった魔物を世に放つことになる。
ここで切り出すのも卑怯だとは思うが、こいつを一緒に倒すのに協力してほしい。
今は出せないが…報酬なら払う」
「少し待ってください、同化とは一体…」
ヴァロの返答する前に、ホーウェンはものすごい速さで魔獣の方を振り向く。
魔獣がピクリと動くのをホーウェンは視界に捉えたらしい。
「…目を覚まし始めている?どういうことだ?」
ホーウェンは一瞬動揺をみせるとすぐさま直ぐ近くの石碑に向けて走り出す。
「結界の強度を上げる。すまないが、しばらくの間魔物の注意を石碑から引き離してくれ」
石碑に手を当て、ホーウェンは言い放つ。
周囲の石碑が輝きを増す。
ヴァロは息を吸い込みしばらく思案する。
状況に流されている現状はよくない。
ここまでがすべてホーウェンの思惑ならば、ヴァロたちはそれに引っかかったただの間抜けということになる。
だが、魔獣が動き出している今、このままこの状況を静観するわけにもいかなかった。
ふと背後にいるフィアを見る。
フィアはヴァロと視線を合わせると無言で頷いた。
「わかった。あんたの言葉に従うよ。けれど終わったら全部話してもらう」
聖剣と魔獣の同化、いきなりのことにヴァロは混乱しかけたが、とにかく目の前の魔獣に専念することにした。
わからないことだらけだったが、今はこの魔獣をここで解き放つわけにもいかない。
何よりヴァロたちはこのサイズよりも大きな魔獣と戦った経験がその選択を後押した。
…ホーウェンという魔女はどこか信用できるような気がしたのだ。
「頼む」
ホーウェンを背にヴァロは剣を引き構える。
「ぐおおおおお」
魔獣は雄たけびを上げた。
耳をつんざくような音とともに途方もない威圧感がヴァロたちを襲う。
並みの人間ならば失神していてもおかしくはないほど。
それなりの使い手だったとしても、戦意喪失は免れないほどのもの。
そんな脅威にさらされても二人の心は折れなかった。
それ以上の絶望を知っていたのが大きい。
二か月前に聖都で魔王と対峙して感じた絶望感。
あの時の魂の底から震えがくる恐怖。
ヴァロたちには、それに比べればまだましのように思えた。
「フィア、俺があの魔獣の注意をひきつける。援護を頼む」
「うん」
ヴァロは目の前の魔獣に向かって剣を構えた。
そもそもヴァロの剣が魔獣に効くかどうかも怪しいところだ。
ヴァロの周りに光る膜のようなものが現れる。
フィアによる魔法壁。
聖都事変後フィアが作り出した魔法であり、ある一定以上の外部からの衝撃から身を守る効果があるらしい。
実戦で使うのはこれが初めてになる。
「聖剣と戦う日が来るなんてな」
ヴァロは自分の剣を握りしめ、魔獣の視界に躍り出る。
そして二人と魔獣との戦闘が始まったのだ。




