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コミュニケーション☆調査♥ぐるぐる

 目を覚ますと、目の前に明麗の無防備で無邪気な寝顔があった。

 あんた、こういう時はけっこう可愛いじゃない。

 振り返らなくても分かる、多綵が私の後ろから抱きついてきている。

 一番最初に起きた者として、他の人を起こす責任がある。

 二人を揺り動かして起こした後、スマホを見ると、もう午前11時だった。

 ほんの4時間だけ寝るつもりが、まさかこんなに爆睡しちゃうなんて。


「お母さんは10時頃に出社するから、今ちょうどいいくらいよ」

 そりゃ良かったわ!

 さっそく社長に私たちの発見を報告しに行きましょ。

 トントンとドアを叩く。

「お入りなさい」

 社長室に入ると、社長がパソコンの前で公務をこなしているのが見えた。

「何かあったのかしら?」

 私は明麗に目配せした。娘から母親に話した方が効率的だしね。


「私とこの人たちで調べたんだけど、会社が毎月固定で150万の広告費を出してるの。これっておかしい。経費削減を検討すべきだと思うの」

「細かいことはすべて総支配人に任せているから、彼女と話し合ってちょうだい」

 まあいいわ!

 総支配人を訪ねましょう。

 またしても個人オフィスね。どんだけ一人で居るのが好きなのよ?

 トントンと叩く。

「どなた?」

「お義姉さん、私よ」

「明麗ね!お入りなさい」

 中に入ると、私が目配せする間もなく明麗が口を開いた。


「私たちが調べたところ、『先駆インテグレーテッド・マーケティングコンサルティング有限会社』っていう広告代理店に、毎月外注広告費として150万支払っているの。この支出の削減を検討してもらえないかしら?」

「予算の審査は会計の仕事よ。お父様が見て問題ないって言ったから、私は契約書にサインしただけだもの。お義父様に聞いてみたら?」


 おかしいわね。

 なんで私たち、たらい回しにされてんの?

 経理室もこれまた個人オフィスだったわ。

 もしかして影でコソコソサボるためかしら?

 ごめんなさいね、ついついゲスの勘ぐりをしちゃったわ。


 入るやいなや、林お父さんが立ち上がって尋ねてきた。「どうしたんだい?」

「お父さん、私とこの人たちで調べたんだけど、会社は毎月固定で150万の広告費を出してるの。会社の実情に合わせて経費削減を検討してくれない?」

「それは無理だよ~!あそこの会社とは年間契約を結んでいてね。年間1800万を月払いで支払うことになっているんだ」


 1800万ですって!?

 計算したら、10年で宝くじに当たるようなもんじゃないの!

 ある会社が何年も前に契約を結んだだけで、宝くじ当選確定ってこと!?


「でもお父さん、うちの会社にそんな高い経費を負担する余裕なんてない」

 そうよそうよ!

「契約違反をしたらもっと違約金を払わなきゃいけないからねぇ。今年が終わってから考えようか?」

 今まだ3月よ!? それじゃ1800万をそのまま相手に不労所得として受け取らせるってこと!?

「あの会社もちゃんと仕事はしてくれているんだよ。じゃなきゃ、半期決算にパフォーマンスを再検討して、別の会社に切り替えるか考えようか?」


 一体どんな仕事したら150万もかかるのよ?

 今すぐ検討しちゃダメなわけ!?

 もしかしたら他の会社に乗り換えた方が安くて効率的かもしれないじゃない。

 仮に違約金で1800万をちょっと超えたとしても、長期的には節約になるんだし。


「それとも、社長に聞いてみるかい?」

 これ、ぐるっと一周して振り出しに戻っただけじゃないの!?

 仕方なく社長のところへ戻り、明麗がこれまでの話し合いの結果を報告した。


「つまり、その150万が具体的に何に使われているか、誰も説明できないってことかしら?」

 そうなんです。

「成果報告書はあるの?」

 ここに来る前に資料室で探してみたけれど、読んでも意味不明だったわ。

 多綵が飛び出して言った。

「いっそのこと、私たちがその腐れウジ会社に乗り込んで交渉してこようよ!」

 腐れウジじゃなくて『先駆』よ。


「そもそも、最初に契約を結んだのは誰なの?」

「お義姉さんです」

「総支配人ね……」

 社長は人差し指でパソコンのデスクの上をクルクルと撫でてから言った。

「相手の会社の住所と電話番号は分かるかしら? あなたたちで行って話してきなさい。総支配人は連れて行かないようにね」

 ラジャー!

 でも住所も電話番号もさっぱり分からないわ。

「ネットで調べなさいな。会社名を入力すればすぐわかるわ」

 了解!


 私はすぐさまスマホを取り出して検索した。明麗と多綵が顔を寄せて覗き込んでくる。狭い!

 私は電話をかけてみた。

『はい、ハニカム・シェアオフィスでございます』

 甘ったるい女性の声が聞こえてきた。

「すみません、間違い電話でした」

 私は即座に電話を切った。

「お姉ちゃん、電話番号の入力すら間違えるの~!?」

 もう一度画面を確かめたけど、間違ってないわよ!

「私がやる!」

 多綵は私のスマホを分捕ると、発信履歴から直で同じ番号にかけ直し、スピーカーモードにした。

『はい、ハニカム・シェアオフィスでございます』

 私たちは社長の顔を見つめた。

「『先駆』という会社が入っているか聞いてみなさい」

 聞いてみると、なんとマジで入っていた。

「訪問の予約を取りなさい」

 仰せのままに!


『申し訳ございません。あいにく只今お席に誰もおりませんので、ご予約を承ることができません』

「いつ戻ってくるの!?」

 多綵が畳み掛けるように尋ねた。相手は軽々しく答えてきた。

『恐れ入りますが、分かりかねます。後ほどお掛け直しいただけますでしょうか。他に何かご用件はございますか?』

「どうも」

 多綵は電話を切ると、スマホを私の手に押し戻してきた。


 怪しすぎるわ。

『先駆』のはずなのに、なんで『ハニカム』になってんのよ?


「スタートアップ企業が賃料を節約するためにシェアオフィスを借りるなんて、よくあることよ」

 どうもありがと!明麗。あんたってば本当に物知りねぇ。

 で、シェアオフィスって何よ?

「シェアオフィスは賃貸マンションみたいなものよ。ただフロアや部屋を丸ごと借りるとは限らなくて、デスク1個と登記用のアドレスだけ借りる場合もあるの」

 登記用のアドレスって何?

「法人として国に登録するとき、一般人と同じように具体的な座標が必要になるでしょ? 例えばどこに住んでるか、どの街の何通りの何番地か、みたいな。場所があって初めて国から信用されるのよ」

 なんでそんな面倒なことすんのよ?

「そうしないと、会社に届く郵便物を受け取れないでしょ!」

 郵便物なんて受け取ってどうすんの? 今時メールで良くない?

「田多惠! 一生質問し続ける気!? 今どうするのよ!」

 明麗、怒らないでよ。細かいことはどうでもいいじゃない。


 予約が取れないなら、いっそのこと直接殴り込みしましょ!

 行くわよ、ハニカムに行って甘~いハチミツでもあるのか確かめてやるわ!


 公共交通機関に乗り、数分歩いて現場に殴り込んだ。そこは全面ガラス張りの3階建ての建物だった。

 なかなかに豪華じゃないの!

「お姉ちゃん、ここカフェじゃないの~?」

 バカ妹ねぇ、どこのカフェが3階建てで店建てるってのよ? 絶対赤字で潰れるわ。私の直感がそう告げているわ。

「どうやって儲けてんだろ?」

 明麗の言い分によれば、賃金収入ってことでしょ?

「二人とも、早く入らないの!」

 はいはい! 急かさないでよ。


 ドアを開けて受付へ。

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」

 受付のお姉さんの声は甘ったるかった。電話の時とほぼ同じ、いや、それ以上に甘いわ。

 これが「実物はテレビより映える」の音声版ってやつかしら?


 多綵が一歩前へ出た。

「腐れウジ(爛蛆)会社を探してるんだけど」

『先駆』よ。(中国語では「蛆」と「駆」は発音が同じ)

 ウジ虫はハエの赤ちゃんなんだから。腐ってはないし、印象としてちょっと汚いだけで、ハエだって手をすりすり揉み合わせるくらい清潔好き……じゃなくて!

「先駆マーケティングに用があるの」

 明麗は流石に手際が良いわね。

「ご予約はお済みでしょうか?」

「してないの~……ダメかなぁ?」

 多綵、あんた正直すぎるわ!

 そんなんじゃ相手の警戒心を煽るだけじゃないの!


「どのようなご用件でお越しになられたのですか?」

 ほら見なさい! 相手の警戒レベルが120%まで跳ね上がったわよ!

「会社の責任者の方とお仕事のお話がしたくて。連絡を取っていただけないかしら?」

 明麗の切り込み方はナイスね。ビジネスの話を嫌う奴なんていないわ、儲かるなら何だってウェルカムよ。

「責任者はただいまお席を外しております」

「受付のお姉さん、ここに居てなんで分かるの~?」

 多綵が鋭く突っ込んだ。そうよ! 3階建ての建物で、少なくとも100人以上が出入りしてるのに、あんた全員把握してんの!?

「お答えできかねます」


 すると多綵は、どこから札束を取り出した。

 あろうことか何枚にも分けて床に置き、外へと向かって一直線に並べていく。

「あれれ~不思議~! なんで床にお金が落ちてんだろ~!?」

 あんたが置いたんでしょーが! 何バカなこと言ってんのよ!?

「受付のお姉さん、お仕事大変でしょ~? 受付なんていくら貰えんの~? 一日中ここに縛り付けられて、トイレすら行けないんじゃない~?」

 なんで急にそんな話振ってんのよ?


 受付のお姉さんが突然お腹を押さえて言った。

「あの……ちょっとトイレに行ってきますわ」

 そして受付を出ると、道すがらお金を拾い集めて去っていった。

 あ! 分かったわ! 人間って本当に汚いわね!

 うちの妹、ヘビを誘い出すのに大好物のエサを撒いておびき寄せたのね!

「たったの100万くらいだよ~! 安い安い!」

 なに言っちゃってんのよーーー!?


「手段が汚すぎるでしょ! それ完全に買収じゃない」

 明麗の言う通りね!

「そんなことより、早く資料調べるよ~!」

 多綵は受付の中に潜り込んだ。

 あんた、何を調べればいいか分かってんの?

「まったく、仕方ないわね。会社名と発送記録から調べましょう。この『先駆マーケティング』はおそらく住所だけ借りていて、誰も出社していないのよ。本当のオフィスの場所は別のところにあるわ。受取先住所と受取人さえ分かればはっきりするはずよ」


 聞いたは聞いたけど、イマイチ理解できないわ。

 明麗、もっと簡単な言葉で説明できないかしら?

 まあいいわ、とにかくその『先駆インテグレーテッド・マーケティングコンサルティング有限会社』とやらを調べればいいんでしょ!

 私が調べてやるわ!


 明麗と多綵が紙の資料に手を付け始めたから、私はパソコンを使わせてもらうわね!

 ええっと……。

 キーワード、「発送」。

 おっ! 『発送資料一覧』ってのがあるわ。

 クリックして開いて、さらにキーワード『先駆インテグレーテッド』で検索。

 あったわ!

 受取人:林志明(リン・ジーミン)。

 住所……ふむふむふむ。

 電話番号もあるわね。


「時間を無駄にしないで、ちょっと来て見てみなさいよ!」

「あはは、お姉ちゃん! 受取人も『林』さんだね~! もしかしたら明麗ちゃんの親戚かも!」

「そうね! 林お父さんの知り合いかもしれないわ。それなら絶対話しやすいじゃない!」

 見ると、明麗が暗い顔をしていた。


「……お父さんと同姓同名よ」


 多綵が大笑いした。

「こんな面白いことがあるなら、なんで自分の家族に紹介しないんだろ~?」

 そうよね! もし私だったら、『田多惠』なんて奴と出会ったら速攻で多綵に教えて、そのドッペルゲンガーと多惠を引き合わせるわよ!


「住所はお義姉さん(張総支配人)の家と同じだわ」

 あんた、なんでそんな言い切れるわけ?

「物心ついた頃から、お盆や正月のたびに家族でご飯食べに行ってたんだもの。確認するまでもないわ。間違いなくそこよ」


 あらまー! それってつまり……?

 どうやら全員集めて、じっくり話し合いの会議を開く必要がありそうね!

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