立て直し☆捜索♥大作戦
明麗の借金を返し終わった翌日、クラスの朝の自習時間。
明麗が私の机の前に歩み寄ってきた。
何よ? 私、今ノリノリで問題を解いてる最中なんだけど!
「あなたと妹さん、今日の日の午後うちの会社に来て」
「何しに行くのよ?」
「行けばわかるわ」
まったく要領を得ないわね。
学校の授業は? 明麗に無理やり引っ張られて、そのままサボる破目になった。
明麗に連れられて会社にやってきた私と多綵は、頭の上に「?」を浮かべていた。
会議室には、女性ふたりと男性ひとりが厳しい表情で座っていた。
明麗は彼らと私たちの間に立った。
「紹介するわ。こちらが借金を返してくれた田多惠さん。それと、その妹さんよ」
私と多綵は息ぴったりに同時に頷いた。
「真ん中に座っているのが私の母で、会社の社長よ」
キレ者で覇気に満ちあふれた感じの女性が立ち上がった。
「この度はご援助いただき、心より感謝申し上げます。本日お越しいただきましたのは、お貸しいただいた5000万のうち、3000万は債権引き受けという形で、今後会社から毎月定額の30万ずつご返済させていただきたく存じます。完済までは8年と4ヶ月を見込んでおります。残りの2000万につきましては、貴女とお妹様で会社の株式2割を購入して取締役となっていただき、銀行への分割返済を行いながら会社からの配当金をお受け取りいただきたいのです。貴女様のご投資があれば、私たちは新事業を展開することができ、毎月お二人合わせて200万の配当金をお渡しできる見込みです。こちらが契約書になります」
社長は二束の契約書を私と多綵に差し出してきた。
なんて言えばいいのかしら? 聞いてはいるけどさっぱり理解できないわ。
要するに、この契約書にサインすれば毎月ウハウハで230万もらえるってこと!?
左側に座っていた男性が立ち上がった。整った顔立ちで、正義感に満ちあふれた顔つきをしている。
「私は会社の監査役兼経理を担当しております。明麗の父でもあります。娘の同級生だと伺っておりますので、お二人なら我が社の今後の事業計画もお分かりいただけるかと思います」
林お父さんは資料を2冊差し出してきた。
多綵はそれを取り上げると、知ったかぶりでパラパラとめくり、テーブルの上にぽいと放り投げた。
「まあ、いけるんじゃない!」
あんた、絶対理解してないでしょ。
私も手に取って読んでみた。事業項目、財務計画、収支明細などがズラリと書かれている。
結論から言えば、会社は2年後に月収4000万超えを見込んでおり、私たち姉妹は手堅く毎月230万、うまくいけばそれ以上手に入るってことね。
右側の女性が立ち上がった。利発そうな顔立ちで、いかにも算盤を弾くのが得意そうだ。
「張と申します。会社の総支配人を務めております。こちらで働いて18年になります。今回私たちが展開しようとしている事業は、現在のトレンドであるAI技術を活用した応用事業です。絶対にポテンシャルがあります。どうぞ安心してお任せください。もしご納得いただけないようでしたら、2000万は今すぐお返ししても構いません」
彼女は深々と一礼し、体を起こすと、爛々とした目で私を直視してきた。
明麗が私たちの方を向いた。
「これはうちの両親と、私のお義姉さん……じゃなくて総支配人の決定よ。2000万をただで貰うわけにはいかないし、何の具体的な計画も無しなんてあり得ないから。これが私たちの最大限の誠意のあらわれよ」
「じゃあなんで前は赤字出して借金まで作ってたの?」
多綵のその質問、私は考えもしなかったわ。
こんなに真面目そうな経営陣がいるのに、なんで債務危機に陥ったりしたのかしら?
張総支配人はうっすらと笑みを浮かべた。
「私たちが古くさい体質に固執しすぎて、会社が悪循環に陥ってしまったのですわ。今回は2000万という注入資金がありますから、必ずや会社の体制を徹底的に改革してみせます」
「ダメだよ~!私たちが取締役になるからには、私たちも経営に口出すからね!」
バカ妹は何をバカなこと言ってるのよ、私たちは会社経営なんて超ド素人じゃないの。
絶対断られるに決まってる。
すると林社長が両手を差し出してきた。
「毎月の取締役会には必ずお二人をご招待いたしますわ。どんなご意見でも議論いたしましょう」
多綵はその片手を握った。
「約束だからね!絶対に私たちの言うこと聞いてよ!」
私もしばらく躊躇してから、もう片方の手を握った。
林お父さんがボールペンを2本差し出してきた。
「では取締役のお二人、投資の署名をお願いいたします」
まぁいいわ!乗りかかった船だもの、サインくらい何よ。
サインを終えると、私たちは会議室の外へ案内された。オフィスには大勢の社員が集まっており、私たちを囲んで拍手を送ってきた。
社長が私たちを前に押し出した。
「社員の皆さん、こちらが我が社の新しい株主兼取締役の、田大取締役と田小取締役のお二人です!」
誰かが尋ねた。「どちらが大取締役で、どちらが小取締役ですか?」
明麗が一歩前に出た。
「バカっぽく見えるのが小取締役で、賢そうに見えるけど喋るとすぐアホってバレるのが大取締役よ」
なによその紹介の仕方は!?
私だって寝過ごしさえしなければ……まぁいいわ、寝過ごしたのは事実だし、天才的な頭脳は頭の中に秘めておけばいいのよ、見せびらかす必要なんてないわ。
「お姉ちゃん、私達取締役になっちゃったね!」
少しは弁えなさいな、喋らないで、アホっぽく聞こえるから。
と思ったら、あんたったらまた一歩踏み出して大きな声で叫んだ。
「私は明麗を会社の顧問に任命します!今すぐ私たちのために尽くして、会社の状況を教えてちょうだい!」
バカ妹め、一体何のコントやってんのよ?
社長は丁寧かつ上品な笑顔を浮かべた。
「田小取締役、そのような重大なご決定は、取締役会での議題として審議・承認される必要がございますわ」
そうよ!みんなで議論して合意を形成するのが民主主義ってものじゃない!
「じゃあさ、今すぐ会社の資料が見たい!お姉ちゃんと明麗、付き合って!」
張総支配人が脇から身を乗り出してきた。
「ご覧になりたいものは何でもお見せしますわ。我が社は設立30年になりますが、田小取締役はどのような資料をご覧になりたいのでしょうか?」
そうよ!あんたが経営を理解してるなら、私だって総統になれるわよ。
「お姉ちゃんと明麗が考えてくれる!」
丸投げして私に擦りつけんじゃないわよ!
何十ものの視線が私に突き刺さる。
いや、私だってマジで知らんだけど!?
仕方なく適当に口から出まかせを言った。
「財務調査をするわ」
林お父さんが前に出た。
「3年以上前の資料はすべて資料室に保管してあります。直近3年の資料は私のオフィスにありますが、取り出すには少しお時間がかかりますよ」
「平気平気!」多綵がまた余計な口を挟む。「資料がどこにあるか教えてくれたら私が会議室まで運ぶから!お姉ちゃんと明麗が自分で見るよ」
「30年分の資料となると、プロの会計士が精査しても2週間はかかります。まずは私の方でプレゼン資料におまとめいたしましょうか?」
「やだ!お姉ちゃんと明麗が自分で見るのがいいの!」
多綵のワガママに押し切られ、林お父さんは私たちを資料室へ案内してくれた。
「ここからあちらまでが、我が社創業以来の会計資料になります」
スチールラックの上に20個以上の段ボール箱が並んでおり、箱の側面には太い油性ペンで何年分の会計資料かが書かれていた。
こんなに見るの!?
私には耐えられないわ、ポイントに絞って手をつけることにしましょう!
私は尋ねた。「会社が恒常的な赤字に陥り始めたのは何年前からですか?」
「5年前からです」
じゃあ少し遡って調べるくらいでいいわね。私は適当に言った。「じゃあ過去8年分の資料を見ましょう。多綵、搬入開始!」
「りょーかい!」
多綵はすぐさま8年前の資料箱に手を伸ばし、私と協力して会議室へ運び込んだ。
明麗も後ろをついてくる。
「あなたたち、決算書読めるの?」
「読めなーい!お姉ちゃんは?」
「読めないわよ。今から勉強するの」
明麗は溜息をついた。
「私、記帳士と会計事務技能士の資格持ってるから、読み方教えてあげるわ」
なんですって? 会社の経営者の娘は伊達じゃないわね、そんな資格まで持ってるなんて。
「15歳から受けられるのよ。高1の2学期にお母さんから絶対取れって言われて取ったの」
ははっ、これで鬼に金棒ね! 私たち3人で協力すれば、一晩で全部見終わるかもしれないわ!
「お姉ちゃん、荷物運んで疲れたから休む~」
はいはい! うちのワガママ妹ときたら、最初からアテにするんじゃなかったわ。
会議室で、多綵は椅子を3脚並べてその上に横になり、顔に帳簿を乗せて寝始めた。
私は明麗に従って、まずは適当な報告書を1冊手に取り基礎を学びつつ、分からない部分はスマホで調べるか明麗に聞き、スマホの電卓アプリで加減算して計算ミスがないかチェックした。
疲れたらオフィスのコーヒーメーカーでコーヒーを淹れて飲み、お腹が空いたらお菓子箱を漁って点心を摘んだ。
8年分の帳簿を、私達は午後4時から深夜の4時までかけ、全体の8割ほど読み込んだ。
数字の不整合はひとつもなかった。
ていうか、なんで帳簿なんて調べてんだっけ?
「うちのお父さんが帳簿間違えるわけないでしょ」
伝票の束を置くと、明麗は私に恨めしそうな視線を投げてきた。
「まあまあ! もしかしたら収支改善のヒントが見つかるかもしれないじゃない!」
私は適当にごまかした。
正直、帳簿の数字はどれも筋が通っている。
私は仕方なく、隣でヨダレを垂らして寝ている多綵を肘で突っついた。
「なになに~? 私、パリコレのランウェイで最新トレンドの服着て歩いてる夢見てたのに~」
でかい夢見てんじゃないわよ。
あんたも問題がないか見てみなさいよ。
サボんじゃない!
あんたは顔に乗っていた帳簿を手に取ると、寝転がったまま適当にパラパラとめくった。
はぁ、帳簿上下逆さまに持ってて何が読めるっていうのよ。
「逆さまよ!」
明麗、突っ込むだけ無駄よ。あいつは正しく持たせたって読めないんだから。
「お姉ちゃん」多綵は帳簿を差し出し、ある項目を指さした。「この広告費150万の支出って多すぎない? 私が毎月時計とか服買うのに十分な額だよ」
でも計算は合ってるのよね!
「会社って広告費の割合、どれくらいなら少ないって言えるの?」
知らないわよ。
分からないなら調べるまで。
私と明麗は顔を見合わせ、それぞれのスマホで検索を開始した。
広告費は業種や会社の特性によっては、多いところで3割にのぼることもある。
コスパが悪いと判断すれば適宜削減できるし、逆に効果が出ているなら効果が頭打ちになるまで投じるべきなのだ。
「毎月ずっと150万なの?」
良い質問ね。私はすぐ前後の1年分の資料を引っ張り出した。どれも毎月きっかり150万固定だった。
明麗も別の赤字年の資料を取り出した。
「固定で150万ね」
「お姉ちゃん、いっそのことこの費用から手をつけてみない?」
よし! 今日、社長に報告して会議を開きましょう。
その前に、私を4時間ほど寝かせてくれない?




