クラスメイト☆メイド♥萌え萌えキュン
メイドカフェのドアを押し開けようとした瞬間、多綵に手を引っ張られた。
「何よ?」
「お姉ちゃんはお勉強はできるのに、ルールは読めないの~?」
多綵がドアの横にある案内板を指さした。
そこには「ベルを鳴らしてメイドがお出迎えするのをお待ちください」と書かれていた。
注意してくれて助かったわ、じゃなきゃ普通のカフェみたいに突入するところだった。
「私に任せて!」
多綵がベルを押すと、ほどなくして出迎えてくれる人がドアを開けた。
メイドさんが店内に案内して席に着かせてくれて、後からお冷を持ってきた別のメイドさんが本日お給仕のメイドさんたちを案内してくれた。
案内してくれたのが青玲、お冷を持ってきたのが朱朱、遠くで背中を向けて立っている黒髪ロングの子がウララ。全部で3人だ。
続いて基本ルールの説明を受けた。メイドさんを勝手に撮影するのは禁止、1人の最低注文金額は300元、チェキは最低注文金額にカウントされない、とのこと。
まあ、割とシンプルね。
「お姉ちゃん、あのウララちゃん背姿だけで美人って分かるよ!」
「私はどれが一番コスパ良いか見てるんだから、あんたは静かにしてなさい」
「何食べたって一緒だよ~、どうせメイドさんの萌え萌えキュン魔法がかかれば何でも美味しくなるんだから!」
「じゃにあんたは何が食べたいのよ?」
「なんでもいい!」
「じゃあテキトーにするわね」
料理が運ばれてくるのを待つ間、メイドさんをデレデレ眺める多綵の呆れ顔を観察する。
これに満足してくれればいいんだけど。
ミニスカートから伸びる白い太ももが近づいてきた。
顔を上げると、メイドさんが持ってきた料理が見えた。
2人前のオムライス。トレーの上にはケチャップのボトルも載っている。
「お嬢様、お召し上がりください」
オムライスがテーブルに置かれると、相手は何かから逃げるかのように急いで背を向け立ち去ろうとしたが、多綵に呼び止められた。
「ハート描いてほしいな!おーっきいハート!魔法もかけて!」
青玲が寄ってきた。
「ウララちゃん、お嬢様に描いてあげて」
メイドカフェのルールはよく分からないけど、妹の要求は別に度を越してはいないはずだ。
このウララって子、気取ってんの?どんな顔してんのか拝んでやろうじゃない。
目が合った瞬間、私は驚愕した。これ、林明麗じゃない!?
校内テストで私とトップ争いをしてた学測の全国首位が、こんなところでバイトしてるの!?
「何笑ってんのよ?」
明麗は眉をひそめて私を死んだ魚のような目で見つめた。
「お姉ちゃん、言ったでしょ!ウララちゃんは美女だから怒っても可愛いんだよ~」
私はなんだか新鮮な気分だった。
普段は高飛車でポーカーフェイスを崩さない彼女のこんな姿、学校じゃ絶対に見られない奇観だわ。
「ウララちゃん、お嬢様にそんな言い方はダメよ」
「ツンツンしてるメイドさんも最高~!もっと罵ってぇ!」
妹よ……あんたそれもいけるわけ!?
「田多惠、私を見下してるんでしょ?」
「まさか!真面目に働きながら全国首位を取るなんて、試験当日に寝過ごして欠席して親のお小遣いで生きてる私に比べたら、凄すぎるじゃない?」
「お姉ちゃん、この人と知り合いなの?」
ただのクラスメイトよ。
「知り合いでも、お嬢様のためにお給仕はちゃんとしなきゃダメよ。それとも私に逆らうつもり?」
青玲の口調は優しいが、背筋が寒くなった。
「お嬢様、何をお描きしましょうか?」
明麗がケチャップを握りしめた。包丁じゃなくて良かったわ、じゃなきゃ刺されてたかもしれないわね!
「おーっきいハート!」
「私も同じで頼むわ」
描き終わると、明麗は立ち去ろうとした――
「魔法!魔法かけてないよ!」
妹よ……これ以上彼女を困らせるんじゃないわよ。
朱朱が寄ってきて、明麗の腕を引っ張った。
「一緒にお嬢様たちに魔法をかけよう?」
明麗は諦めたようにテーブルの脇に立った。
朱朱はすごく良い子で、明麗と一緒に付き合ってくれた。
「お嬢様たちもご一緒に~!きらきら~、ふわふわ~、おいしくなーれ、萌え萌えキュン♥」
元気いっぱいの朱朱が派手なポーズを決め、明麗も慣れた手つきでそれに続いた。私はラジオ体操のお手本を初めて見る子供みたいにぎこちなく真似をした。妹よ!あんた妙にノリノリじゃないの!
「明麗ちゃん超かわいい!あの怒りつつ恥ずかしがってる感じがたまらん!もっとやって!」
妹よ!あんたの気持ちは分かるけど、人を無理強いしちゃダメよ。
「お嬢様、魔法をかけたばかりのお料理は温かいうちに召し上がらないと美味しくなくなっちゃいますよ」
朱朱が巧みに話題を逸らしてくれた。
そうね!早く食べなさい!
これがあんたの念願だった、魔法のかかったオムライスなんだから。
多綵はおとなしく一口一口、ガツガツと口に運ぶ。本当にそんなに美味しいの?私には普通に思えるけど。魔法なんてどこにあるって言うのよ。
その隙に朱朱と明麗は隅の方へ移動し、青玲と3人で何かを話していた。
「お姉ちゃん、これ人生で一番最高の瞬間かも」
「オーバーね。小さい頃家族で遊園地行った時も同じこと言ってたでしょ」
「じゃあ同率1位ってことで!」
「ハイハイ、あんたの言う通りよ」
「お嬢様、お水おかわりいかがですか?」
明麗が再びテーブル脇に現れた。
いいわね!ちょうど喉が渇いてたところよ。
「言っておくけど、あなたたちは客で、私はメイド。やるべき仕事はやるけど、学校に戻ったらただの赤の他人だから」
お冷注ぎに来たんじゃなくて、釘を刺しに来たわけね。
「お姉ちゃんとウララちゃんってクラスメイトなの?」
私のイカれた妹に釘なんて刺さるわけないじゃない。
ほらごらんなさい、明麗の引きつった顔。釘を刺しようとして自分の手を金槌で叩いちゃった感じでしょ。
「じゃあこれからお姉ちゃんの教室に会いに行ってもいい?」
「ダメ」
「ふたりって仲良いの?」
正直、明麗がどう思ってるかは知らない。少なくとも私は彼女をライバル視してるけど。
「バカよ。共通テスト当日に寝過ごして欠席するくらい、救いようのないバカ。あなたのお姉ちゃんは学校に友達もいないし、私だって話したことすらなかったわ」
心が痛いわ!私が多綵に会いに行ってるのは、多綵が妹であり友達でもあるからよ!
「お姉ちゃんはバカじゃないよ、ドジなだけ!テストの成績はすごくいいんだから!」
そうよ!分科テストで絶対に台湾大学に合格してやるんだから!
……ちょっと待って、ドジって何よ?
「どうやら二人揃ってバカみたいね」
「何言ったの?私を罵るのはいいけど、多綵を侮辱するのは許さないわよ!」
「林明麗――」
「ウララと呼びなさい」
「ウララ、あんた共通テスト全国1位で家も会社経営してるって話じゃない!なんでメイドカフェでバイトなんて落ちぶれた真似してんのよ!?見るからに接客業を真真剣にやる気もないし、客に文句言ったり罵ったり、やる気ないなら最初からやるんじゃないわよ!自分が何様のつもり!?」
「私がバイトしようがあなたに関係ないでしょ!」
「客は神様よ!メイドをやるのが嫌ならやめなさい!」
メイド服から覗く体のラインや、白い手足が目の毒なほど美しいのは認めざるを得ないけど、私は誤魔化されないわよ!あんたにはメイドの奉仕の心が欠けてる!偽物よ!
「メイドカフェはロールプレイ。ご主人様やお嬢様が好き勝手言ったって、メイドが全部合わせる必要はないわ」
「いいわよ!じゃあ私がお金を出してあんたのチェキを買うわ!妹と一緒に撮りなさい!店のルールなら断れないでしょ!?」
明麗は屈辱と軽蔑の混ざった表情を浮かべた。
「お姉ちゃん、私100枚撮りたい!」
「100枚!?ちょっと待ちなさい!1枚200元だから、2万元(約9万円)も飛んでくじゃない!いい子だから5枚にしておきなさい!」
「お姉ちゃんのケチ!」
ケチで結構よ!
朱朱が走ってきてチェキの枚数をメモする。
「先輩、撮らなきゃダメですか……?」
「指名が入ったんだから撮るの!本当に嫌なら私か青玲ちゃんが代わるけど?」
明麗はしばらく頭を悩ませていたが、首を横に振った。
「……撮ります」
写真を撮ったって減るもんじゃないんだから、結局受けるんじゃない!
朱朱は満足そうにチェキカメラを取りに行った。
妹が4枚目を撮り終えた時、突然言った。
「5枚目はお姉ちゃんと撮って!」
「え、私がこの人と?」
「私はどちらでも構いません~」
明麗の顔には営業用スマイルが張り付いていて、声は甘ったるかったが、そこには明らかな殺気が籠もっていた。
まあ、妹の頼みなら拒否する理由もないわね。
妹と席を代わり、明麗の隣に立った。
私が片手でハートの半分を作ると、明麗は親指を立てて『いいね』のポーズを作った――なんだか中指を立てたがってるように見えるのは気のせいかしら?
撮影が終わると、明麗が私の耳元に顔を近づけてきた。すごくいい匂いがする。彼女は囁いた。
「バラしたら殺すからね。写真の外流も絶対禁止」
……くわばらくわばら!手に持ったチェキ写真がガクガクと激しく震えたわ。




