『救ったはずの世界に裏切られた少年。聖なる断罪の儀式で全てを失い、空っぽになった「元・勇者」の慟哭』
魔王は死んだ。
本来なら、世界に光が戻り、祝福の鐘が鳴り響くはずだった。
しかし、王都へ続く道でフウガを待っていたのは、祝杯ではなく、どす黒い陰謀の気配。
王の死、心を失ったリュミエル、そして大司教による「神託」。
勇者という名を剥ぎ取られ、泥にまみれるフウガ。
守りたかった温もりすら、彼の手からこぼれ落ちていきます。
魔王を討った。
だが、帰路に届いた報せは――祝福ではなかった。
王が、崩御した。
道中で耳にした、騎士団内の囁き。
あまりにも唐突な死。
公式発表はまだない。
だが、城内ではすでに動きが始まっているという。
摂政として立つのは、大司教。
そして――王女リュミエル。
彼女は、女王となった。
だが。
その隣に立つのは――常に、大司教だった。
魔王を討ち、王都へ戻る道中。
フウガの胸にあったのは、達成感ではなかった。
残っているのは――あの男の言葉。
『お前は、“形”を斬っているに過ぎない』
(……何を、斬っている)
理解できない。
だが、その言葉だけが妙に現実味を帯びて残っていた。
まるで――
この先を、知っていたかのように。
王都の城門が見えた時、その違和感は現実になる。
静かすぎた。
本来なら歓声があるはずの場所。
だが、そこにあったのは――
「裏切り者!」
投げつけられた汚物が、フウガの肩を汚す。
「魔王と通じた売国奴が!」
「人の敵め!」
罵声と憎悪。
明確な敵意。
フウガは、足を止めた。
(……なんだ、これ)
胸の奥に、冷たいものが沈む。
それでも、歩く。
止まれば、それを認めることになるから。
大聖堂。
荘厳な空間。
並ぶ聖職者。
沈黙する騎士たち。
すべてが、整っている。
「勇者フウガよ」
大司教の声が響く。
「聖なる神託は下された」
壇上。
そのさらに奥――
玉座に座る、リュミエルの姿があった。
白いドレス。
王冠。
だが。
その目は――何も映していなかった。
「貴様が魔王を討てたのは、闇と契約したからに他ならぬ!」
断言。
疑いの余地を与えない声音。
ざわめきが広がる。
だが、フウガは動かない。
(……最初から、決まってる)
これは裁きではない。
“処理”だ。
「――ゆえに、その身は大罪人として裁かれる」
静かに騎士たちが動く。
フウガの手には、黄金の聖剣。
あの夜、震える手で託されたもの。
「……待て」
思わず、声が出る。
「これは――」
言葉が止まる。
言えば、巻き込む。
あの少女を。
あの夜を。
約束を。
「黙れ、大罪人」
「王女殿下が貴様のような者に授けるはずがない」
腕を捻り上げられる。
痛みが走る。
だが、それよりも――
剣が、離れていく。
(……やめろ)
力を込める。
だが、抗えない。
その時。
視線が、合った。
玉座の上。
リュミエル。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ――
その瞳に、“光”が戻る。
「――っ」
唇が、わずかに動く。
声にはならない。
届かない。
だが。
確かに、“何かを言おうとした”。
次の瞬間。
その光は、消えた。
何も映さない瞳に戻る。
(……ああ)
フウガは理解する。
誰も、動けない。
ここでは。
蹴りが入る。
「がはっ……!」
床に叩きつけられる。
手が緩む。
――離れる。
黄金の剣が、大司教の手へと渡る。
その瞬間。
わずかに、剣が軋んだ。
拒むように。
だが――
その光は、押し潰される。
「見よ!」
「聖なる剣は、正しき主の元へ戻られた!」
歓声が上がる。
だがそれは、祝福ではない。
断罪の歓声だった。
フウガは何も言わない。
言えない。
(……ああ)
ようやく、分かった。
(……俺は)
誰のために、剣を振っていたのか。
連行される。
抵抗はしない。
もう、力が入らなかった。
その背を、ひとりの少女が見ていた。
大司教の傍ら。
祈る姿勢のまま、動けないまま。
大司教の娘――セレナ。
(……言わなきゃ)
一歩、出かけて――止まる。
父の視線。
責任。
恐怖。
すべてが、喉を締めつける。
唇が震える。
だが――声は出ない。
「……っ」
涙が落ちる。
それだけだった。
⸻
姫との約束も。
勇者という名も。
すべてが、静かに奪われていく。
⸻
残ったのは――
空っぽの少年だけだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
あまりにも、あまりにも理不尽な展開……。書いていて私自身も手が震えるほど、フウガの受ける仕打ちが心苦しかったです。
魔王を倒し、ボロボロになって帰ってきた彼に投げつけられたのは、石つぶてと罵声でした。
リュミエルが最後に言いかけた言葉は何だったのか。
そして、全てを奪われ「空っぽ」になってしまったフウガに、残された道はあるのか。
「大司教許せない!」「フウガを助けて!」と思ってくださった方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで、どん底にいる彼に力を貸していただければ幸いです。
次回、物語はさらに大きく、残酷に動き出します。




