表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/20

魔王と呼ばれた男

 ついに辿り着いた、魔王城の最深部。

 凶悪な怪物を想像していたフウガを待っていたのは、ただ椅子に腰掛ける一人の男でした。 

  魔法も威圧もない。ただ「戦うため」だけに研ぎ澄まされたその存在は、フウガに問いかけます。

 「なぜ戦う」――と。

 英雄への階段を登るはずのフウガが、その一撃で失ってしまう「何か」とは。

魔王城の最深部。

 重厚な扉を押し開けた先に――

 怪物はいなかった。

 そこにいたのは、ひとりの男だった。

 椅子に腰掛けた、初老の男。

 疲れ切った目。

 それだけの存在。

 だが――

 その空間に踏み込んだ瞬間。

 フウガの内側で、何かが軋んだ。

(……違う)

 魔力ではない。

 威圧でもない。

 もっと、根本的なもの。

 立ち方。

 呼吸。

 視線の置き方。

 すべてが、“戦うため”に整えられている。

(……こいつ)

 理解する。

(……同じ側だ)

(……なのに、どこにも属していない)

 剣の側にいる人間。

 ただ、それだけで分かる。

「……来たか」

 男が顔を上げる。

 その目が、フウガを射抜く。

「異界の者、か」

 淡々とした声。

 驚きはない。

「その目……気に入らんな」

 敵意ではない。

 拒絶でもない。

 ただ、“知っている者”の言葉だった。

 フウガは構える。

 自然と体がそうなる。

 だが――

「なぜ戦う」

 唐突に、問われた。

「……は?」

「誰に言われて、剣を振っている?王か?それとも――あの連中か」

 言葉に詰まる。

 本来なら、答えはあったはずだった。

 守るため。

 人のため。

 平和のため。

 だが――

 口に出そうとした瞬間、違和感が走る。

(……違う)

 何かが、噛み合わない。

 沈黙。

 男は、小さく息を吐いた。

「……そうか」

「まだ、そこか」

 ゆっくりと立ち上がる。

 手に取るのは、飾り気のない鉄の剣。

 ただの剣。

 それだけ。

 だが――

 その動作ひとつで、空気が変わる。

 張り詰める。

 逃げ場が消える。

「ならば――」

 男が構える。

 無駄のない、完成された構え。

「斬れ」

 静かに言う。

「私を、“悪”だと思うのならな」

 踏み込まれる。

 速い。

 魔法ではない。

 身体ひとつで作られた速度。

 フウガは反射的に剣を上げる。

 ぶつかる。

 ――重い。

 ただの一撃なのに、腕が軋む。

(……強い)

 違う。

 これは。

(……完成してる)

 次が来る。

 その次。

 無駄がない。

 一切の迷いがない。

 すべてが”殺すため”に最適化されている。

 だが――

(……読める)

 フウガの視界が、わずかに変わる。

 線が見える。

 動きの流れ。

 力の繋がり。

 【剣神】が、勝手に反応する。

 それでも。

(……おかしい)

 違和感が消えない。

 完璧なはずの動きの奥に――

(……止まってる?)

 迷いではない。

 もっと深いところで、何かが”固定されている”。

 次の一撃。

 その瞬間。

 フウガは、それを”見た”。

 わずかな緩み。

 ほんの、刹那。

 踏み込む。

 振る。

 ――一閃。

 刃が、届く。

 胸へ。

 確かな手応え。

 だが。

「……それでいい」

 男は、避けなかった。

 貫く。

 血が流れる。

 温かい。

「……なんで……」

 フウガの声が震える。

 勝った感覚が、ない。

 男は、わずかに笑った。

「その剣は……魔法ではないな」

 息が浅い。

 だが、目は死んでいない。

「いい」

「それでいい」

 フウガを見ている。

 だが、その視線は――

 どこか遠くを見ているようでもあった。

「覚えておけ」

 血が床に落ちる。

「お前が斬ったのは……」

 一拍。

 静かな間。

「私ではない」

 フウガの瞳が揺れる。

「……え」

「いずれ分かる」

 男は言う。

「お前は、“形”を斬っているに過ぎない」

 その言葉は、理解できない。

 だが――

 否定もできなかった。

「何を斬っているのか」

「それを知らぬまま進めば――」

 かすかに、笑う。

「いずれ、お前は壊れる」

 その瞬間。

 男の輪郭が、滲み始めた。

 肉体ではない何かが、抜けていくように。

 まるで最初から、この身体は”器”に過ぎなかったかのように。

 塵となって、消えていく。

「……待て……!」

 思わず、手を伸ばす。

 だが、届かない。

 すでに、遅い。

 最後に残ったのは――

「……選べ」

 その一言だけだった。

 静寂。

 完全な、静寂。

 残されたのは。

 血に濡れた剣と。

 フウガひとり。

 荒い呼吸。

 震える手。

(……違う)

 これは。

 勝利じゃない。

(……俺は)

 何も、分かっていない。

 何を斬ったのかも。

 何と戦っていたのかも。

 それでも。

 剣を握る。

 だが、力が入らない。

 強く握ろうとするほど――

 “何かを間違えたまま握っている”という感覚が、強くなる。

 そんな重さだけが、残っていた。

 最後までお読みいただきありがとうございます。

 「魔王を倒した」という本来なら最大級のカタルシスがあるはずのシーンですが、フウガに残されたのは勝利の味ではなく、得体の知れない「間違い」の感覚でした。

 「私ではない何を斬ったのか」

 この男が遺した言葉が、今後のフウガの運命を大きく変えていくことになります。

 完結に向かっているようで、さらに深い迷宮に入り込んでいくようなこの展開、皆様はどう感じましたでしょうか?

 もし「この先の展開が気になる!」「フウガ、負けるな!」と思ってくださったら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ