表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/20

『初陣、ハズレ勇者は何もできなかった』

綺麗すぎる空の下で、戦場は始まった。

魔法も、勇気も、何もなかった。

ただ――怯えて、立ち尽くして、生き残っただけ。

これは、何もできなかった勇者の、最初の戦いの記録だ。

 その日は、突き抜けるような青天だった。

 あまりにも、綺麗すぎる空。

 だからこそ――

 その下で広がる光景が、現実だと認められなかった。

 泥。血。鉄。

 鼻を焼くような臭いが、肺の奥にこびりつく。

「いいか、ハズレ勇者」

 騎士団長の声は、やけに鮮明だった。

「貴様の役目は囮だ。死んでも文句は言うなよ」

 淡々と告げられる”役割”。

 それは命令ではなく――

 処分に近かった。

 フウガの腰には、黄金の剣。

 昨夜、姫から託されたもの。

 だが、

「偽物の金ピカを持ちおって。格好だけは一人前だな」

 騎士たちは、嘲る。

 誰も気づかない。それが”本物”だということに。

(……だから、なんだ)

 心の中で、乾いた声がする。

(本物でも、意味ないだろ)

 握ることすら、していない。

 ただ、そこにあるだけの剣。

 門が開き、世界が、切り替わる。

 咆哮。

 地平線の向こうから、“それ”は来た。

 魔族の軍勢。数ではない。気配が違う。

 存在そのものが、人間と噛み合っていない。

(……あれと、戦うのか)

 それを理解した瞬間、体の奥が、冷たくなる。

 その時だった。

 すぐ横で、爆ぜた。

 視界の端で、志願兵のひとりが足をもつれさせ、前に倒れ込む。

 ――まずい。

 そう思うより早く、体が動いていた。

 背中を掴み、横へ突き飛ばす。

 次の瞬間、その場所を火球が焼き払った。

 助かった。

 だが。

 別の声が、途切れた。

 昨日まで、隣で飯を食っていた志願兵。

 名前も、もう思い出せない。

 その体が、一瞬で黒く潰れた。

 火球が直撃した。

 肉の焼ける臭い。皮膚が弾ける音。

 “人間だったもの”が、そこに落ちる。

(……なんだ、これ)

 理解が、拒絶する。

 だが、視界は逃がしてくれない。

 腕が飛ぶ。

 首が転がる。

 叫びが、途中で途切れる。

 全部、“一瞬”だった。

(……無理だ)

 足が動かない。

 一歩踏み出せば。あそこに入れば。自分も、同じになる。

 殺す側か。殺される側か。

 どちらにせよ――

(……耐えられない)

「何を突っ立っている、この腰抜けが!」

 衝撃。

 背中を蹴り飛ばされる。

 地面に転がる。泥が口に入る。顔を上げる。

 目の前に魔族が。

 距離、数歩。

 刃が、振り上げられている。

「死ぬ……っ」

 思考が止まる。

 体が勝手に動く。

 腰の剣――ではなく。

 手にしていた鉄剣を、ただ持ち上げる。

 意味はない。

 分かっている。

 それでも――

 その瞬間。

 光が、すべてを飲み込んだ。

 轟音。

 視界が白く焼ける。

 熱。

 何も見えない。何も聞こえない。

 ただ、世界が消える。

 ――数秒後。

 静寂。

 恐る恐る、目を開ける。

 何も、なかった。

 さっきまでそこにいた魔族も。

 まだ息のあった味方も。

 全部。

 跡形もなく、消えていた。

「……は」

 声が、出ない。

 後方。

 騎士団の魔法。

 広域殲滅。

 敵も、味方も。関係なく、消す力。

(……これが)

 戦い。

 理解したくなかった現実が、形になる。

 フウガは、何もしていない。

 ただ、立って。

 怯えて。

 巻き込まれなかっただけ。

 それだけで――

 “生き残った”。

 戦いは、終わっていた。

 圧勝。

 誰もがそう言った。

 歓声。安堵。誇り。

 そのどれもが、遠い。

 フウガの中には、何もなかった。

 いや、ひとつだけ、あった。

(……気持ち悪い)

 喉の奥が焼ける。吐きそうになる。

「おい、見ろよ」

「勇者様は一度も剣を抜かずに腰を抜かしていたぞ」

「魔法も使えず、度胸もなし。あんなのが伝説の勇者とはな」

 笑い声。

 否定はできない。全部、本当だからだ。

(……俺は)

 何もしていない。守ってもいない。戦ってもいない。

 ただ。

 “死ななかっただけ”。

 凱旋の列。最後尾。民衆の視線が刺さる。

 期待と、失望と、嘲り。

 その全部を浴びながら。

 フウガは、ただ下を向いて歩いた。

 手の中の鉄剣。

 冷たい。重い。

 ――違う。

 本当に重いのは。

 腰にある、もう一振り。抜くことすらしなかった、聖剣。

(……約束、したのに)

 脳裏に浮かぶ。月明かり。

 あの言葉。

『この剣で――君の未来を、切り拓く』

 喉が、締まる。

(……無理だろ)

 笑えない。

(……俺に、そんな価値ない)

 震える手。

 止まらない。

 ――なのに。

(……なんで、動けた)

 さっきの一瞬。

 考える前に、体が動いた。

 助けた。

 斬ってはいない。

 戦ってもいない。

 それでも――

(……あれは、なんだ)

 分からない。

 分からないまま。

 フウガはただ、下を向いた。

 その違和感だけが、消えなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

何もできなかった。それでも、体だけが動いた瞬間がありました。

その違和感の意味は、まだ誰も知りません。

次話もお付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ