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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

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温もりと拒絶

 4話までの戦いの虚しさを受け、この5話が「休息」ではなく「魂の救済」であることを示唆します。

 戦場から帰還したフウガを待っていたのは、英雄としての称賛ではなく、冷ややかな蔑視の声でした。

 泥と血に汚れ、心まで凍りついてしまったフウガ。

 誰にも見せられなかった「震える手」を、ある人物が見つけ出します。

  第5話。二人の距離が、静かに、けれど決定的に変わる夜の記録です。

 王宮に戻ったフウガを待っていたのは――戦場よりも、冷たい空気だった。

 大広間は勝利を祝う喧騒に満ちていた。

 煌びやかな装飾、響き渡る笑い声。

 その隅で、泥と血に汚れた少年がひとり立っている。

 誰も見ていない。

 いや――“見ようとしていない”。

「役立たず」

「税金の無駄遣いだ」

「臆病な案山子だな」

 通り過ぎる騎士たちの言葉が、背中に突き刺さる。

 反論はできない。

 ――その通りだからだ。

 フウガは、ただ立っていた。

 石像のように動かず、何もできず、何も守れず――ただ”そこにいた”だけの存在として。

 やがて、耐えきれなくなった。

 逃げるように大広間を後にし、向かった先は地下の自室。

 窓もない、湿った空気の部屋だった。

 扉を閉めると、その音だけがやけに大きく響いた。

 そのままベッドに倒れ込む。

 天井を見つめるが、何もない。

 視界の端で、自分の手が見える。

 ――震えている。

(……まだ、止まらないのかよ)

 握ろうとしても、力が入らない。

 脳裏に蘇る。焼ける匂い。消えた命。光に飲み込まれた、あの瞬間。

「……っ」

 喉が詰まる。

(……俺は)

 何もしていない。守ってもいない。戦ってもいない。

 ただ――生き残っただけだ。

 その事実が、何よりも重かった。

 その時、扉がわずかに軋み、開く。

「……フウガ様」

 聞き慣れた声。

 顔を上げると、そこには姫――リュミエルが立っていた。

 豪奢なドレスの裾は泥で汚れている。

 ここまで走ってきたのだと分かる。

「……来るなよ、こんな場所に」

 掠れた声で言い、フウガは視線を逸らす。

「……汚れる」

 短い言葉。

 だが――

(……これ以上、踏み込まれるのが怖い)

「俺は戦えなかった。怖くて、何もできなかった」

 吐き出すように続ける。

「臆病者だよ」

 沈黙が落ちる。

 だが、リュミエルは止まらなかった。

 一歩、また一歩と近づき、フウガの隣に立つ。

 そして、静かに膝をついた。

「いいえ」

 落ち着いた声だった。

「貴方は、臆病ではありません」

 フウガは顔を歪める。

「……見てないくせに。俺は逃げたんだぞ」

「逃げたのではありません。怯えたのです」

 即座に返る言葉。

 違いは分からない。だが、否定もできなかった。

「命が失われることを、怖いと思えた。それは――間違いではありません」

 リュミエルはそっと手を伸ばし、フウガの震える手に触れる。

 冷えきった指先に、温もりが重なる。

「……そんなの」

 フウガは力なく笑う。

「戦場じゃ、意味ないだろ」

 正論だった。

 怖がるだけの人間は死ぬ。それが現実だ。

 リュミエルは何も言わなかった。

 ただ、静かにフウガとの距離を詰め――そっと抱き寄せた。

「……っ」

 一瞬、抵抗しかける。だが、できなかった。

 温かい。柔らかい。戦場にはなかったものだった。

 凍りついていた何かが、軋む。

「……俺は」

 声が崩れる。

「もう一回、あそこに行けるのか?」

 それは願いでも確認でもない。ただの恐怖だった。

 リュミエルはすぐには答えなかった。

 少しだけ抱きしめる力を強め、そして静かに言う。

「……分かりません」

 フウガの呼吸が止まる。

「ですが、貴方が”それでも行きたい”と思える日が来ることを、私は信じています」

 優しさだった。だが同時に、逃げ場でもあった。

 答えは与えられない。決めるのは、自分だ。

「……無理かもしれない」

 フウガは呟く。

 それは、初めて口にした本音だった。

「俺、怖い」

 震えが戻る。止まらない。

「それでも構いません」

 即答だった。

「怖いままでいてください」

 否定しない。取り除かない。ただ受け入れる。

 その在り方が――フウガの中の何かを壊した。

「……っ」

 堪えきれず、フウガはリュミエルの胸に顔を埋めた。

 声が漏れ、嗚咽へと変わる。止まらない。

 泣くことすら怖かったのに、今は――止められなかった。

 しばらくして、涙は収まった。

 だが、何かが解決したわけではない。

 恐怖も無力も、そのままだ。

 ただ一つ、違うものがあるとすれば――この温もりを知ってしまったこと。

(……離したくない)

 それは、決意ではない。

 覚悟でもない。

 もっと弱くて、もっと醜い――

 “失いたくない”という感情だった。

 フウガは、まだ立てない。

 剣を握る理由も、見つかっていない。

 それでも。

 この夜、彼は初めて”ひとりではない”ことを知った。

 ――そして同時に。

 この温もりを失うことを、何よりも恐れるようになった。

 第5話までお読みいただき、本当にありがとうございます。

 強くあることを強いられてきたフウガにとって、リュミエルの「怖いままでいてください」という言葉は、何よりも救いになったのではないでしょうか。

 泣きじゃくるフウガを抱きしめるリュミエルの温もりが、画面越しに皆様にも伝わっていれば幸いです。

 どん底にいた彼が、この「失いたくないもの」を胸にどう歩き出すのか。

 続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】で応援をお願いします!執筆のガソリンになります!

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