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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

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『骸の聖女エリザと亡者の街。――逃げ腰の少年が初めて「形なきもの」を斬った日』

 ――怖いままでいい。

 少女の温もりに救われたはずの夜は、あまりに短く過ぎ去りました。

 次なる目的地は、音が消え、腐敗の臭いだけが満ちた「亡者の街」。

 そこでフウガを待っていたのは、人の形を捨て、死者を弄ぶ狂気――「骸の聖女」エリザ。

 絶体絶命の包囲網の中、フウガの瞳に「見えないはずのもの」が映り始めます。

 魔王軍の拠点へと続く街道沿いに、その街はあった。

 ――静かすぎる。

 風は吹いているはずなのに、音がない。

 いや、正確には”あるべき音”が存在しない。

 人の気配。生活の匂い。息遣い。

 それらが、根こそぎ消えていた。

「……何だ、ここは」

 フウガの足が止まる。

 鼻を突く腐敗臭。

 だがそれは戦場のそれとは違う。殺された直後の匂いではない。

 時間が経ち、すべてが”終わった後”の臭い。

(……違う)

 戦場じゃない。

(……完成してる)

 ぞわり、と背筋が粟立つ。

 視線を走らせると、路地の奥に人影があった。

 動けずにいる。逃げられずにいる。

 生きている者の、気配だった。

 その時だった。

 ――ガタリ。

 音がした。

 倒れていた兵士が、ゆっくりと起き上がる。

 濁った瞳。呼吸はない。意思もない。

 ただ、生きている者へ向けられた”何か”だけで動いている。

「……っ」

 足が動かない。

 斬らなければならないと分かっている。だが、それは”人だったもの”だ。

 刃を向けるという行為そのものが、内側から拒絶される。

「――ようこそ」

 声が落ちてきた。

 軽く、楽しげで――その奥に底の見えない歪みを孕んだ声。

「哀れな勇者様」

 広場。崩れかけた時計塔の影。そこに、ひとりの少女が立っていた。

 白すぎる肌。露出した骨。隠す気配はない。

 むしろ、それを”見せつけている”。

 その唇には、柔らかな笑みが浮かんでいた。

「綺麗でしょう? ボクのコレクション」

 くるり、と回る。

 その動きに合わせて、周囲の死体が軋んだ。

「裏切らないんだよ、この子たちは。死んでしまえば、もう嘘をつかないから」

 フウガはその名を知らない。だが本能が理解する。

(……あれは、人じゃない)

 魔族とも違う。もっと別の、歪んだ”何か”。

「ねえ、勇者様」

 女の視線が向く。

 一瞬で、空気が変わった。

「……ああ。あなた、壊れかけてるのね」

 言葉が、正確すぎるほどに突き刺さる。

「いいわよ。そのまま壊れてしまいなさい。中途半端が一番醜いもの」

 息が詰まる。

 亡者たちが、ゆっくりと囲む。逃げ場はない。

(……また、か)

 体が動かない。初陣と同じだ。何も変わっていない。

 その時だった。

 亡者の一体が、路地の奥の人影へと刃を振り下ろす。

「やめ――」

 声が出るよりも早く、刃が落ちる。

 その瞬間。

 フウガの中で、何かが噛み合った。

 ――見える。

 細い糸。

 死体と死体を繋ぐ、見えない線。それが動かしている。

(……これを)

 理屈は分からない。だが、“分かる”。

 体が動く。

 意思ではない。もっと別の何かに引かれるように。

 踏み込み、振る。

 ――一閃。

 音は小さい。

 だが。

 亡者の動きが止まり、崩れ、ただの骨へと戻る。

(……動かしてる”それ”を斬った)

「……あら」

 女の声に、わずかな興味が混じる。

「なるほど。“それ”が見えているのね」

 一拍置いて、続ける。

「形じゃないものを斬るなんて……本当に厄介ね」

 フウガは息を荒げる。手が震える。今の一撃に、実感がない。

(……なんだ、今の)

 怖い。さっきまでとは違う意味で。

 女が、一歩近づく。

 距離が縮まる。危険だと分かっているのに、動けない。

「でも、未熟ね」

 指先が、わずかに動く。

 その瞬間、無数の骨が再び蠢き始めた。

 先ほどより濃く、重い圧。

(……無理だ)

 理解する。もう一度はできない。

 だが、女はそれ以上踏み込んでこない。

 ただ、観察している。

「あなた、どちらにもなりきれないのね」

 静かに言う。

「生きる側にも、壊す側にも」

 心臓が跳ねる。

「壊れるなら、ちゃんと壊れてほしいなぁ。中途半端なままでいるのは、美しくないから」

 その言葉と同時に。

 亡者たちの動きが、止まる。

 次の瞬間。

 崩れ落ちる。

 すべてが、ただの骨へと戻る。

 静寂。

 気づけば、女の姿は消えていた。

 残されたのは、フウガだけ。

 荒い呼吸。震える手。

(……見えた)

 ほんの一瞬。

 だが確かに。

 “動かしているもの”に触れた。

 斬ったのは、肉でも骨でもない。

 もっと奥にある”何か”だった。

(……これが)

 分からない。

 だが、確信だけが残る。

 ――普通じゃない。

 この力は。

 あの女と同じくらい。

(……怖い)

 自分の手を見る。

 震えている。

 だが、それは恐怖だけではない。

 ほんのわずかに。

 理解してしまった実感が、そこにあった。

 それが何を意味するのか、まだ言葉にできない。

 フウガは立ち尽くす。

 まだ前には進めない。

 だが――

 もう、何も知らなかった頃には戻れなかった。

 第6話までお読みいただきありがとうございます!

 5話の優しさから一転、今回はかなりダークな展開になりました。

  新キャラのエリザ、いかがでしたでしょうか?「中途半端は美しくない」と言い放つ彼女の存在は、今のフウガにとって最大の毒であり、鏡のような存在です。

 そして、フウガがついに見せた「糸を斬る」力。

 これが希望なのか、それとも更なる絶望への入り口なのか……。

 「覚醒の瞬間がかっこいい!」「エリザが気になる!」と思ってくださったら、ぜひ【☆☆☆☆☆】での評価やブックマークをお願いします!皆様の反応が執筆のエネルギーです!

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