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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

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4/20

『骸は笑い、剣は迷う。――たとえ未完成でも、僕の刃は「死を繋ぐ構造」に届いてしまった』

 目の前に立つのは、死を弄ぶ「骸の聖女」エリザ。

 一度は断ち切ったはずの亡者たちが、再び形を成して襲いかかります。

 「どちらにもならないまま、終わるのも一つの完成よ」

 甘い誘惑のような言葉がフウガの心を蝕む中、彼の脳裏に浮かんだのは、ある少女の温もりでした。

 震える剣が、ついに「届くはずのない存在」へと向けられます。

 静寂は、戻っていなかった。

 風は止んでいる。だが、音がある。

 ――軋む音。

 骨が、鳴っている。

 崩れ落ちたはずの亡者たちが、ゆっくりと形を取り戻していく。

 砕けた骨が繋がり、割れた頭蓋が噛み合う。

 終わっていない。

「……いいわね」

 声は、すぐ近くにあった。

 気づけば、女は数歩先に立っている。先ほどと同じ位置。いや、それ以上に近い。

「さっきの、もう一回やってみて?」

 軽い声音。その背後で、街そのものが蠢いている。

(……無理だ)

 喉が乾く。

 さっきの一撃が、どうやって出たのか分からない。

 思い出そうとしても、形にならない。

「どうしたの? “見えてた”んでしょう?」

 逃げ場はない。

 亡者たちが、一斉にこちらを向く。

 濁った瞳が、フウガを捉える。

(……動け)

 分かっているのに、足が重い。

 焼ける匂い。崩れる命。何もできなかった自分。

(……また、か)

 胸の奥が、冷たくなる。

「ねえ」

 女が首を傾げる。

「どうして、まだ”そっち側”にいるの?」

 その言葉で、理解してしまう。

 自分が、この世界のどこにも立てていないことを。

「怖いんでしょう? 奪うのも、奪われるのも」

 否定できない。

「だったら、やめてしまえばいいじゃない」

 優しく告げる。

「どちらにもならないまま、終わるのも一つの完成よ?」

 言葉が、深く沈む。

 何も選ばないまま終わる。

 それは――逃げではないのか。

 その時、脳裏に浮かぶ。

 夜の庭園。

 差し出されたパン。

 震えながら、それでも自分を見ていた少女――リュミエル。

(……違う)

 わずかに、指先に力が入る。

(……あれは)

 逃げじゃない。

 “選ぼうとしていた”顔だ。

 完全でもなく、強くもなく、それでも前に進もうとしていた。

(……俺は)

 そこから、目を逸らしているだけだ。

 その瞬間。

 見えた。

 絡み合う無数の糸。街全体に張り巡らされた、死を繋ぐ構造。

(……全部は、無理だ)

 理解する。

 全部は断てない。

 だが。

 足が、前に出る。

 踏み込む。

 振る。

 ――一閃。

 断てたのは、ほんの一部。

 だが、その先にいるのは――女。

 刃がかすめる。

 頬に、浅い傷が走った。

「……あら」

 女が、指で血をなぞる。

「へえ……届くのね」

 その目が変わる。

 “観察”から、“認識”へ。

 対象として見ていたものを、“存在”として捉え直す視線。

 背筋が凍る。

 何かに”認められた”。

 それが、恐ろしい。

 勝ちたかったわけじゃない。

 ただ、見えないふりをしていたかっただけだ。

 なのに今、あの女の目の中に――自分が映っている。

(……消えたい)

 そう思った瞬間、気づく。

(……これが、怖さの正体か)

 戦うのが怖いんじゃない。

 “認識される”ことが、怖い。

 存在を肯定されることが。

「でも――まだ足りない」

 女が指を鳴らす。

 その瞬間、亡者の数が増える。

 圧が違う。密度が違う。

(……無理だ)

 今の一撃は、糸の一本を断っただけだ。

 この密度では、次を見つける前に飲み込まれる。

 足が止まる。

 剣を構えたまま、動けない。

 どこを斬ればいいか、分からない。

 糸が多すぎて、“道”が見えない。

 剣が、迷う。

 ――その瞬間。

 女は、動きを止めた。

「……やっぱり、未完成だねぇ」

 興味が薄れたように、視線を外す。

「どちらにも振り切れない。壊れきれないし、生ききれない」

 静かに、言い切る。

「でも、嫌いじゃないよ。そういう”途中”も、ボクは好きだから」

 背を向ける。

 亡者たちが、一斉に動きを止める。

 そして。

 崩れ落ちた。

 ただの骨へと戻る。

 静寂。

 女の姿は、もうなかった。

 残されたのは、フウガだけ。

 荒い呼吸。震える手。

(……俺は)

 勝っていない。

 何一つ。

 それでも――

 ほんの少しだけ、“届いた”。

 だが、それよりも強く残るものがあった。

 あの女の目。

 自分を”存在”として捉えた、あの視線。

(……認められた)

 それが嬉しいわけじゃない。

 ただ――

 もう、見えないふりはできない。

 自分がここにいることを。

 この力が、確かにあることを。

(……選ばなければならない)

 どこに立つのか。

 何のために振るのか。

 答えはまだない。

 だが、問いだけが――

 初めて、自分のものになった。

 第7話までお読みいただき、本当にありがとうございます!

 ついにフウガの刃が、エリザという「強大すぎる存在」に届きました。

 倒したわけではなく、ただ「認識された」だけ。けれど、フウガにとってはそれが何よりも恐ろしいこと……。この「認められることへの恐怖」という彼の繊細な心情が、皆様に少しでも伝わっていたら嬉しいです。

 エリザとの出会いを経て、フウガはもう「何も知らなかった頃」には戻れません。

 迷いながらも進む彼を、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで支えていただけると幸いです!

 次回、フウガが選ぶ「自分の立ち位置」とは……?お楽しみに!

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