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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

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『“選ぶ者”の剣』

誰も見ていなかった。

誰も気にしなかった。

だが――ひとりだけ、見ていた少女がいた。

月明かりの下で結ばれた約束は、勇者と姫の物語ではない。

価値がないとされた二人の、静かな反逆の始まりだった。

 夜。

 王宮の庭園は、昼間とは別の顔をしていた。

 整えられた花々も、噴水の水音も、今はどこか遠い。

 静かすぎる空間の中で、フウガはベンチに倒れ込んでいた。

 空腹。

 疲労。

 そして――無意味さ。

(……何やってるんだ、俺は)

 剣を振る。

 ただそれだけの日々。

 強くなった実感はある。

 だが、それが何になるのか分からない。

 ここでは、魔法がすべてだ。

 魔法が使えない自分に、居場所はない。

 腹が鳴る。

 情けない音だった。

 笑う気力すら出ない。

「……生きて、おられたのですね」

 不意に、声が落ちてきた。

 柔らかく、それでいて震えている声。

 顔を上げる。

 月明かりの中に、ひとりの少女が立っていた。

 白いドレス。

 整った所作。

 だが、その手は――必死に何かを抱えている。

「……あんたは」

 言いかけて、思い出す。

 召喚の時、柱の影にいた少女。

(……王族、か)

 少女は一瞬だけ迷い――それでも、口を開いた。

「……リュミエル、と申します」

 小さく、名乗る。

 それは王女としてではなく。

 一人の人間としての、選択だった。

「これ……少しですが」

 彼女は周囲を気にしながら、布に包まれた小さな袋を差し出した。

 中身は、白いパン。

 柔らかく、まだ温もりが残っている。

 フウガは、迷わなかった。

 それを奪うように掴み、口に運ぶ。

 味など分からない。

 ただ、体がそれを求めていた。

 夢中で食べる。

 リュミエルは何も言わずに、ただその様子を見ていた。その目は、責めてもなく、憐れんでもなく――ただ、静かに安堵していた。

 そして、ほんの少しだけ、息を吐く。

「……どうして」

 食べ終えた後、フウガはようやく口を開く。

「こんなことをする」

 問いというより、確認だった。

 リュミエルは一瞬、言葉を詰まらせる。

 そして、小さく息を吸い――顔を上げた。

「私は……見ていました」

 その声は、先ほどよりも強かった。

「貴方が、誰にも教えられず、それでも剣を振り続けている姿を」

 フウガは黙る。

 見られていたことに驚きはない。

 ただ――

(……気づいていたのか)

 それだけが、少しだけ意外だった。

「この国で、誰よりも泥にまみれているのは貴方です」

 リュミエルはそう言い切った。

 迷いはなかった。

「……でも」

 続く言葉は、少しだけ震えていた。

「誰も、それを見ようとしない」

 沈黙。

 夜の空気が、二人の間に落ちる。

「……だから」

 一度、言葉が止まる。

 召喚の儀から、ずっと気になっていた。

 この国が呼び寄せておきながら、価値がないと切り捨てた少年のことが。

 このまま何もしなければ、後悔すると思った。

 リュミエルは、抱えていた布に手をかけた。

 その動きは、明らかに重かった。

 決断の重さだった。

「これは、本来……貴方に渡されるはずのものです」

 布が解かれる。

 現れたのは、一振りの剣。

 黄金に輝く鞘。

 ただそこにあるだけで、空気が張り詰める。

「……国宝だろ、それ」

 思わず呟く。

「はい」

 リュミエルは頷いた。

 その目は、もう揺れていなかった。

「ですが、この国は――“価値のある者”にしか与えません」

 静かな声。

 だが、その奥には確かな怒りがあった。

「魔法を持たない貴方は、“価値がない”と判断された」

 フウガは何も言えなかった。

 それは事実だったからだ。

「……でも、私は違う」

 リュミエルは一歩、近づく。

「私は、貴方を見ました」

 その言葉は、断言だった。

「誰も見ていない場所で、それでも剣を振る人を」

 フウガの中で、何かが引っかかる。

 否定できない。

 否定したくても、できない。

 リュミエルはそっと、フウガの手を取った。

 彼女の手は冷たかった。だが、その指は強く、離れようとしない。

「これは、“選ばれた者”の剣ではありません」

 聖剣の柄を、押し付ける。

「――“選ぶ者”の剣です」

 その瞬間。

 低い音が、空気を震わせた。

 聖剣が、応えた。

 魔力ではない。

 もっと別の何かに。

 フウガの中にある、“歪んだ才能”に。

 黄金の光が、わずかに脈動する。

 だが、それは暴れない。

 ただ静かに――“認める”。

「……なんでだ」

 フウガは呟く。

「分かりません」

 リュミエルは首を振る。

「ですが――それでいいのだと思います」

 微笑む。

 ほんの少しだけ。

「貴方は、この国の理の外にいる人だから」

 沈黙。

 だが、その言葉は重かった。

 リュミエルは、初めてその名を口にするように、静かに言った。

「フウガ、様」

 わずかに視線を逸らす。

 そして、勇気を振り絞るように言った。

「いつか……」

 一瞬、言葉が途切れる。

 王女ではなく。

 一人の少女としての願い。

「……私を、この場所から連れ出してくれませんか?」

 それは、祈りだった。

 縋りだった。

 そして――選択だった。

 フウガは、聖剣を見る。

 そして、リュミエルを見る。

(……ああ)

 少しだけ、分かる。

 自分が剣を振っていた理由の欠片。

「……ああ」

 小さく頷く。

「約束する」

 剣を握る手に、力が入る。

「この剣で――君の未来を、切り拓く」

 月明かりの下。

 誰にも知られない契約が結ばれる。

 それは、勇者と姫の物語ではない。

 “価値がないとされた二人”が結んだ――

 反逆の約束だった。

聖剣はなぜ、魔力のないフウガに応えたのか。

その答えは、まだ誰も知りません。

次話、フウガは初めて戦場に立ちます。

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― 新着の感想 ―
こんばんは! 感想失礼します。 魔力がないとすぐ切り捨てられるこの国酷いですね。 召喚されたくもないのに勝手に召喚されてゴミ扱いなんて…… 主人公には王をぶっ飛ばしてもらいたいですね(笑) これ…
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