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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

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『魔力ゼロの勇者、剣を振り続ける』

誰にも教わらず。

誰にも見られず。

それでも、剣を振り続けた。

魔法のない世界で、魔法なき者にだけ見えるものが――芽生え始める。

 地下兵舎の最奥。

 湿った石壁に囲まれた訓練場には、常に淀んだ空気が溜まっていた。

 カビの臭いと、鉄の錆びた匂い。

 そして――人が見ていない場所特有の、無関心。

 そこが、フウガに与えられた唯一の居場所だった。

「魔法も使えぬ者に、教えることなどない」

 指南役の騎士は、そう言い捨てた。

 投げ渡されたのは、一振りの剣。

 刃は欠け、赤錆が浮き、握れば手を切りそうなほど荒れている。

「好きに振っていろ。それがお前の役目だ」

 それだけだった。

 型も、呼吸も、何一つ教えられない。

 ただ、“そこにあるものを振れ”と。

 最初の一振り。

 重い。

 想像以上に。

 腕が引きずられる。

 軌道がぶれる。

 空気を切る感覚すらない。

(……こんなものか)

 それでも、フウガは剣を振った。

 一千回。

 二千回。

 三千回。

 数を数える意味は、すぐに消えた。

 腕の感覚がなくなり、呼吸が乱れ、視界が滲む。

 それでも止めなかった。

 止める理由がなかったからだ。

 五日。

 十日。

 どれだけ時間が経ったのか分からない。

 手のひらの皮は剥がれ、肉が露出し、血が柄にこびりつく。

 握るたびに痛みが走る。

 だが、その痛みすら、やがて鈍くなっていった。

(……おかしい)

 ある時、ふと違和感を覚えた。

 剣が、重くない。

 いや、違う。

 “無駄に重い動き”が消えている。

 振り上げる。

 振り下ろす。

 ただそれだけの動作の中に、今まで感じていなかった”引っかかり”があったことに気づく。

(……なんだ、これ)

 もう一度、振る。

 今度は意識して。

 腕の力を抜く。

 すると――

 剣が、勝手に”そこを通る”。

(……見える)

 空気が。

 流れている。

 目に見えないはずのそれが、線のように、揺らぎとして、確かに存在していた。

 剣を振ると、その流れが乱れる。

 だが、ある一点だけ。

 最も抵抗の少ない”道”がある。

(ここだ)

 無意識に、そこへ刃を通す。

 ――スッ、と。

 音が消えた。

 今まで鳴っていたはずの”空気を切る音”が、消失する。

 代わりに残ったのは、異様な静けさだった。

 フウガは、ゆっくりと振り下ろす。

 目の前には、使い古された木人。

 何度も打たれ、傷だらけになったそれ。

 今まで何度叩いても、びくともしなかった。

 ――はずだった。

 パキ。

 乾いた音。

 遅れて。

 ズレる。

 木人の中心から、滑らかに。

 まるで最初からそこに”継ぎ目”があったかのように。

 真っ二つに割れていた。

「……は?」

 思わず、声が漏れる。

 力は入れていない。

 魔法も使っていない。

 ただ、“そこを通した”だけだ。

 フウガは、自分の手を見る。

 血で汚れた、何の変哲もない手。

 剣も、ただの鉄屑。

 だが。

(……違う)

 何かが、変わっている。

(……世界の方が、間違っているのか?)

 その考えが、ふと浮かんだ。

 魔法が全ての世界。

 だが、自分にはそれがない。

 代わりに見えているものがある。

 なら――

(……こっちが、“正しい”のか)

 ――そう思った瞬間、理由のない寒気が背中を走った。

 フウガは、もう一度剣を構えた。

 先ほどと同じ軌道。

 同じ”流れ”。

 同じ”点”。

 振る。

 今度は確信を持って。

 ――パキン。

 別の木人も、同じように崩れた。

 静寂。

 誰もいない訓練場。

 その異常に気づく者は、いない。

「……これなら」

 小さく呟く。

 声はかすれていた。

「戦えるかもしれない」

 それは希望だった。

 だが同時に。

 誰にも見つからないまま育つ、異常の始まりでもあった。

 この日。

 誰にも知られることなく。

 フウガの中で、何かが目覚めた。

この力が何なのか、フウガ自身もまだ分かっていません。

ただ――確かに、何かが変わり始めています。

次話、フウガは初めて”外”と向き合います。

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