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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

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『召喚された日、俺に与えられた名前は”ハズレ勇者”だった』

魔法が絶対のこの世界で、魔力ゼロの勇者が召喚された。

歓迎はなかった。期待もなかった。

あったのは、嘲笑と、暗い地下への道だけ。

これは、そこから始まる物語です。

魔力ゼロ。才能なし。

それでも俺は、世界の理を断つ。


 視界が、白く弾けた。

 鼓膜を引き裂くような衝撃音。次の瞬間には、それすらも遠ざかり、世界は急速に静寂へと沈んでいく。

 雨の音が聞こえない。

 身体の感覚も、ない。

(……死んだ、のか)

 そんな思考だけが、やけに鮮明に浮かんだ。

 ――その時。

「――目覚めよ、異界の救い手よ」

 重く、厳かな声が、意識の奥底に落ちてきた。

 フウガはゆっくりと瞼を持ち上げる。

 そこに広がっていたのは、見慣れたアスファルトでも、信号機でもない。

 巨大な石造りの広間だった。

 天井は高く、視界の果てに溶けている。壁面を彩るステンドグラスからは、七色の光が差し込み、床に描かれた複雑な紋様――魔法陣を照らしていた。

(……なんだ、ここ)

 現実感がない。

 だが、夢にしては妙に”重い”。

 空気の密度が違う。

 匂いすら、知らないものだった。

「ようこそ、勇者フウガ。我が国の危機を救うため、古の術にて召喚させてもらった」

 声の方へ視線を向ける。

 一段高い場所。豪奢な玉座。

 そこに座る男が、フウガを見下ろしていた。

 王だと、直感した。

 理由はない。ただ、その”見下ろし方”があまりにも自然だったからだ。

 その周囲には、法衣を纏った老人たちと、重厚な鎧の騎士たち。

 全員が――跪いている。

 フウガにではない。

 王に対して、だ。

(……おかしいな)

 勇者と呼ばれたはずなのに。

 歓迎されている空気が、どこにもない。

 あるのは、“品定め”だった。

「適性測定を行う」

 短く告げられ、フウガは祭壇の前へと立たされる。

 透明な水晶。

 神官が震える手でそれに触れ、何かを読み取る。

 その顔色が、みるみるうちに変わっていった。

「……属性適性、無し」

 ざわめき。

「魔力保有量……零」

 空気が凍る。

「固有スキル……『鑑定不能』、および――『魔法耐性』」

 沈黙。

 ほんの数秒。

 だが、それは致命的な時間だった。

 次の瞬間――

「……は?」

 誰かが、笑った。

 それを合図にしたかのように、嘲りが広間に広がる。

「魔力ゼロだと?」「欠陥品か」「これが勇者?」

 先ほどまでの厳かな空気は、完全に崩壊していた。

 玉座の王が、露骨に顔をしかめる。

「百年に一度の儀式で呼び出したのが……これか」

 吐き捨てるような声だった。

 フウガは自分の手を見つめる。

 何も感じない。

 魔力、というものが何なのかすら分からない。

 だが一つだけ、はっきりしていた。

(……ここでは、俺は”価値がない”らしい)

「陛下」

 宰相らしき男が一歩進み出る。

「送還の術は存在しません。魔力なき者が戦力になる道理もない。処分するか、あるいは――」

 一瞬、言葉を選ぶ間。

 だが、その結論は決まっていた。

「――地下兵舎にて使い潰すのが妥当かと」

 あまりにも、軽かった。

 人の扱いではない。

 フウガは何も言わなかった。

 言葉を探すより先に、理解してしまったからだ。

(……ああ)

(これは、そういう世界か)

 価値がなければ、捨てられる。

 ただそれだけの、単純な構造。

 腕を掴まれる。

 乱暴に引きずられ、広間の出口へと向かう。

 その途中。

 視界の端に、ひとつの色が映った。

 白。

 柱の影に隠れるようにして立つ、一人の少女。

 華奢な体。不安げな瞳。指は胸の前で、祈るように組まれていた。

 ――姫だと、確信した。

 彼女だけが、この場で唯一。

 フウガを”物”として見ていなかった。

 何かを言いたげに唇を動かす。

 だが、その声は届かない。

 一歩、踏み出しかけて、止まる。

 騎士に引きずられながら、フウガはその姿を見ていた。

(……ああ)

 少しだけ。

 本当に少しだけ、救われた気がした。

 重い扉が閉まる。

 光が遮断される。

 足音だけが響く暗い通路。

 湿った空気。

 鉄の匂い。

 地下へ、地下へと降りていく。

「――ハズレ勇者」

 誰かが、そう呟いた。

 それが、この世界でのフウガの最初の名前になった。

 だが――

 その名前を、フウガはどこかで受け入れていた。

 価値がないなら、証明すればいい。

 ただ、それだけだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

誰にも認められず、地下に捨てられたフウガ。

ただ一人だけ――彼を見ていた少女がいました。

次話、フウガは剣と向き合い始めます。

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