歪んだ集結。――死体と静寂、そして壊れゆく者たちが笑う場所
魔王城の奥に潜むのは、かつての栄光でも、復讐に燃える軍勢でもありませんでした。
そこにいたのは、空間を歪ませるほどの静寂を纏った女・カミラ。
そして、死体とともに「美」を語り、壊れそうなほど脆い瞳をした少女・エリザ。
勇者を追うために魔法を捨てた少年ゼノスが足を踏み入れたのは、理解不能な「異物」たちが集う魔の領域。
「あなた、痛いの好き?」
噛み合わない対話、歪んだ空気。
ルナリエが作り上げた「新生魔王軍」の真価が、今ここで試されようとしています。
魔王城の奥。
静かすぎる。
かつて感じた”圧”とは違う。
威圧でも、恐怖でもない。
ただ――
均一じゃない。
場所ごとに、空気が歪んでいる。
(……まともじゃないな)
ゼノスは足を止めない。
導きはない。
だが、迷いもない。
“呼ばれている”。
それだけで十分だった。
やがて、一つの広間に辿り着く。
扉は開いている。
中へ。
踏み込んだ瞬間。
空気が、変わる。
視線。
複数。
だが、数は問題じゃない。
“質”が違う。
⸻
まず、目に入るのは――黒。
壁際に立つ、一人の女。
黒の髪。黒の装い。
整いすぎている。
無駄が、一切ない。
そして――動かない。
呼吸すら、最小限に見える。
視線だけが、こちらを捉えている。
「……止まれ」
短く、それだけ。
命令でも、威圧でもない。
ただの事実。
ゼノスは止まらない。
だが、それ以上踏み込まない。
意味は理解している。
それで十分だ。
視線をずらす。
そして。
気づく。
違和感の正体。
床。
壁。
空間。
そこに”配置”されているもの。
人。
ではない。
死体。
だが。
崩れていない。
乱れてもいない。
まるで。
最初からそこにあるべきだったかのように、
“整えられている”。
その中心に。
一人。
少女が立っている。
白に近い髪。
細い体。
壊れそうなほどに、脆い。
なのに。
目だけが、合う。
逸れない。
「ねえ」
声。
柔らかい。
だが。
どこか、噛み合っていない。
「あなた」
ゼノスは答えない。
だが、視線は外さない。
「痛いの、好き?」
意味が分からない。
質問として成立していない。
だが。
無視する。
「……関係ない」
短く。
それだけ。
少女が、わずかに首を傾ける。
「あれ?」
本当に不思議そうに。
「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」
沈黙。
答える必要はない。
だが。
少女は続ける。
「壊れてないのに」
その一言。
空気が、わずかに軋む。
ゼノスの指が、ほんの少しだけ動く。
「……関係ない」
繰り返す。
今度は、低く。
少女が笑う。
小さく。
嬉しそうに。
「あは」
「いいね、それ」
一歩、近づく。
距離が、詰まる。
だが、重くない。
軽い。
なのに、離れられない。
「でもね」
視線が、深くなる。
覗き込むように。
「あなた、“途中”でしょ」
ゼノスは動かない。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、立っている。
それだけで。
十分だった。
「完成してないのに」
少女は、静かに笑う。
「もう、止まってる」
その言葉。
ゼノスの中で、何かが引っかかる。
だが。
掴めない。
掴む必要もない。
「……だから何だ」
低く、返す。
少女が、少しだけ目を細める。
楽しそうに。
「別に?」
「ただ、もったいないなって」
興味が切れたように、視線を外す。
それだけで。
圧が消える。
空気が、軽くなる。
⸻
その時。
「控えよ。主が来られる」
黒の女――カミラが、静かに告げる。
それだけ。
それ以上は、何も言わない。
次の瞬間。
空気が、変わる。
歪みが、一つに収束する。
気配。
存在。
説明はいらない。
理解する。
ルナリエ。
「揃ってるわね」
軽い声。
だが。
全てが、止まる。
誰も動かない。
エリザですら。
カミラも。
当然のように。
ゼノスは、ただ見る。
その存在を。
ルナリエは周囲を一瞥する。
興味なさそうに。
そして。
ゼノスに視線を向ける。
「どう?」
短い問い。
「問題ない」
即答。
迷いはない。
ルナリエが、わずかに笑う。
「そ」
それだけ。
興味を失ったように視線を外す。
「じゃあ、好きにして」
命令でも、指示でもない。
ただの放置。
だが。
それで成立する。
⸻
ゼノスは踵を返す。
もう、十分だ。
理解した。
ここは。
まともじゃない。
だが。
問題ない。
背後で、誰かが笑った気がする。
振り返らない。
必要ない。
前だけ見ればいい。
黒鋼の剣が、わずかに鳴る。
未完成の音。
だが。
確かに、進んでいる。
止まらない。
それだけでいい。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついにエリザとカミラが登場しました!
第1部から設定を練り上げてきた彼女たちが、ゼノスと対面するシーンは、作者としても非常に筆が乗る一場面でした。
「壊れてないのに、止まっている」
「完成してないのに、進んでいる」
それぞれが異なる「欠落」を抱えながら、ルナリエという圧倒的な存在の下に集う。
主従でも友情でもない、この「まともじゃない」関係性がどこへ向かうのか。
物語のパズルが一つずつ嵌まっていく感覚を、ぜひ一緒に楽しんでいただければ幸いです!
面白い、キャラが個性的!と思ってくださった方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をお願いします!




