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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第二部:魔王の娘と新生魔王軍

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19/20

歪んだ集結。――死体と静寂、そして壊れゆく者たちが笑う場所

魔王城の奥に潜むのは、かつての栄光でも、復讐に燃える軍勢でもありませんでした。

そこにいたのは、空間を歪ませるほどの静寂を纏った女・カミラ。

そして、死体とともに「美」を語り、壊れそうなほど脆い瞳をした少女・エリザ。

勇者を追うために魔法を捨てた少年ゼノスが足を踏み入れたのは、理解不能な「異物」たちが集う魔の領域。

「あなた、痛いの好き?」

噛み合わない対話、歪んだ空気。

ルナリエが作り上げた「新生魔王軍」の真価が、今ここで試されようとしています。

 魔王城の奥。

 静かすぎる。

 かつて感じた”圧”とは違う。

 威圧でも、恐怖でもない。

 ただ――

 均一じゃない。

 場所ごとに、空気が歪んでいる。

(……まともじゃないな)

 ゼノスは足を止めない。

 導きはない。

 だが、迷いもない。

 “呼ばれている”。

 それだけで十分だった。

 やがて、一つの広間に辿り着く。

 扉は開いている。

 中へ。

 踏み込んだ瞬間。

 空気が、変わる。

 視線。

 複数。

 だが、数は問題じゃない。

 “質”が違う。

 まず、目に入るのは――黒。

 壁際に立つ、一人の女。

 黒の髪。黒の装い。

 整いすぎている。

 無駄が、一切ない。

 そして――動かない。

 呼吸すら、最小限に見える。

 視線だけが、こちらを捉えている。

「……止まれ」

 短く、それだけ。

 命令でも、威圧でもない。

 ただの事実。

 ゼノスは止まらない。

 だが、それ以上踏み込まない。

 意味は理解している。

 それで十分だ。

 視線をずらす。

 そして。

 気づく。

 違和感の正体。

 床。

 壁。

 空間。

 そこに”配置”されているもの。

 人。

 ではない。

 死体。

 だが。

 崩れていない。

 乱れてもいない。

 まるで。

 最初からそこにあるべきだったかのように、

 “整えられている”。

 その中心に。

 一人。

 少女が立っている。

 白に近い髪。

 細い体。

 壊れそうなほどに、脆い。

 なのに。

 目だけが、合う。

 逸れない。

「ねえ」

 声。

 柔らかい。

 だが。

 どこか、噛み合っていない。

「あなた」

 ゼノスは答えない。

 だが、視線は外さない。

「痛いの、好き?」

 意味が分からない。

 質問として成立していない。

 だが。

 無視する。

「……関係ない」

 短く。

 それだけ。

 少女が、わずかに首を傾ける。

「あれ?」

 本当に不思議そうに。

「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」

 沈黙。

 答える必要はない。

 だが。

 少女は続ける。

「壊れてないのに」

 その一言。

 空気が、わずかに軋む。

 ゼノスの指が、ほんの少しだけ動く。

「……関係ない」

 繰り返す。

 今度は、低く。

 少女が笑う。

 小さく。

 嬉しそうに。

「あは」

「いいね、それ」

 一歩、近づく。

 距離が、詰まる。

 だが、重くない。

 軽い。

 なのに、離れられない。

「でもね」

 視線が、深くなる。

 覗き込むように。

「あなた、“途中”でしょ」

 ゼノスは動かない。

 否定もしない。

 肯定もしない。

 ただ、立っている。

 それだけで。

 十分だった。

「完成してないのに」

 少女は、静かに笑う。

「もう、止まってる」

 その言葉。

 ゼノスの中で、何かが引っかかる。

 だが。

 掴めない。

 掴む必要もない。

「……だから何だ」

 低く、返す。

 少女が、少しだけ目を細める。

 楽しそうに。

「別に?」

「ただ、もったいないなって」

 興味が切れたように、視線を外す。

 それだけで。

 圧が消える。

 空気が、軽くなる。

 その時。

「控えよ。主が来られる」

 黒の女――カミラが、静かに告げる。

 それだけ。

 それ以上は、何も言わない。

 次の瞬間。

 空気が、変わる。

 歪みが、一つに収束する。

 気配。

 存在。

 説明はいらない。

 理解する。

 ルナリエ。

「揃ってるわね」

 軽い声。

 だが。

 全てが、止まる。

 誰も動かない。

 エリザですら。

 カミラも。

 当然のように。

 ゼノスは、ただ見る。

 その存在を。

 ルナリエは周囲を一瞥する。

 興味なさそうに。

 そして。

 ゼノスに視線を向ける。

「どう?」

 短い問い。

「問題ない」

 即答。

 迷いはない。

 ルナリエが、わずかに笑う。

「そ」

 それだけ。

 興味を失ったように視線を外す。

「じゃあ、好きにして」

 命令でも、指示でもない。

 ただの放置。

 だが。

 それで成立する。

 ゼノスは踵を返す。

 もう、十分だ。

 理解した。

 ここは。

 まともじゃない。

 だが。

 問題ない。

 背後で、誰かが笑った気がする。

 振り返らない。

 必要ない。

 前だけ見ればいい。

 黒鋼の剣が、わずかに鳴る。

 未完成の音。

 だが。

 確かに、進んでいる。

 止まらない。

 それだけでいい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

ついにエリザとカミラが登場しました!

第1部から設定を練り上げてきた彼女たちが、ゼノスと対面するシーンは、作者としても非常に筆が乗る一場面でした。

「壊れてないのに、止まっている」

「完成してないのに、進んでいる」

それぞれが異なる「欠落」を抱えながら、ルナリエという圧倒的な存在の下に集う。

主従でも友情でもない、この「まともじゃない」関係性がどこへ向かうのか。

物語のパズルが一つずつ嵌まっていく感覚を、ぜひ一緒に楽しんでいただければ幸いです!

面白い、キャラが個性的!と思ってくださった方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をお願いします!

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