【覚醒】届かぬ刃のその先へ。魔法も理屈も介入させない、ただの鉄の「意志」
どれだけ剣を振るっても、ルナリエには届かない。
「結果」そのものを書き換えられたかのように、ゼノスの攻撃はなかったことにされてしまいます。
しかし、ゼノスは気づきます。
自分を縛っていたのは、復讐という名の「意味」であり、届かせようとする「思考」そのものだったことに。
思考を捨て、ただの鉄の塊として空を裂く。
あの日、父を殺した「あの男」が立っていた、理不尽の領域へ。
少年ゼノスの刃が、ついに絶対的強者であるルナリエの肌を捉えます。
黒鋼の剣が、空を裂く。
届くはずだった。
だが。
その一撃は――成立しない。
最初から、当たらなかったことになる。
「遅い」
ルナリエの声。
すぐ近く。
だが、距離は埋まらない。
「もう、その剣は通用しないよ」
ゼノスは答えない。
ただ、踏み込む。
振る。
振る。
振る。
すべてが、消える。
結果だけが、存在しない。
「……違う」
低く、呟く。
呼吸が荒れる。
剣を握る手に、力が入る。
止まらない。
振るう。
だが、結果が存在しない。
足りない。
何かが。
技ではない。
力でもない。
なら――
(考えている)
それが、邪魔だ。
思考が、刃を鈍らせる。
あの日の一撃。
あの男は、考えていなかった。
だから。
届いていた。
「……そうか」
動きが止まる。
一瞬。
完全に。
ルナリエが、わずかに目を細める。
「……なるほど」
静かに、言う。
ゼノスは答えない。
ただ、剣を構える。
何も乗せない。
ただの鉄。
「……これは」
ぽつりと。
言葉だけが落ちる。
「復讐じゃない」
踏み込む。
同じ動き。
だが、違う。
そこに意味はない。
ただ振る。
「あいつの背中を――」
一瞬、止まる。
だが、そのまま振り切る。
「……違うな」
修正。
その場で。
「届かせる」
黒鋼の剣が走る。
「俺の剣を」
⸻
――一閃。
ルナリエの頬に、細い線が走る。
血が、滲む。
静寂。
風が止まる。
「……へえ」
ルナリエが、わずかに笑う。
初めて。
確かに。
「それは、想定してなかった」
指で血をなぞる。
だが。
次の瞬間。
その傷は消える。
なかったことになる。
「でも」
一歩、踏み出す。
距離が消える。
目の前。
「ここから先は――届かない」
ゼノスは動かない。
いや。
動けないのではない。
理解している。
ここから先は、成立しない。
それだけだ。
沈黙。
風だけが流れる。
「……惜しいね」
ルナリエが、静かに言う。
「あと少しで、“壊す側”に来れたのに」
ゼノスは答えない。
ただ、聞いている。
「でも違う」
断定。
「あなたは、そっちじゃない」
そして。
背を向ける。
完全に無防備。
だが、斬れない。
「――ついてきなよ」
軽く。
当然のように。
命令でも、勧誘でもない。
ただの事実の提示。
⸻
沈黙。
ゼノスは動かない。
剣を握ったまま。
視線だけが、ルナリエを追う。
一歩。
ルナリエが歩く。
その背は、もう遠い。
だが。
確かに、そこにある。
ゼノスが、足を動かす。
一歩。
踏み出す。
「……勘違いするな」
低く。
抑えた声。
ルナリエは止まらない。
だが、聞いている。
「従う気はない」
さらに一歩。
距離が、縮まる。
「ただ――」
わずかな間。
切り捨てるように。
「お前を斬るまでだ」
その声に、感情はない。
だが。
確かな意思だけがある。
ルナリエが、わずかに笑う。
振り返らないまま。
「いいよ」
短く。
「そのままで」
⸻
風が吹く。
雪が舞う。
二人の距離は、並ぶ。
だが。
決して交わらない。
それでも。
同じ方向へ進んでいる。
黒鋼の剣が、わずかに鳴る。
静かに。
確かに。
その刃は、まだ未完成だ。
だが――
「……届かせる」
その一言だけが、残る。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ゼノスがルナリエの頬を掠めたシーン。それは小さな傷に過ぎませんが、理を操るルナリエにとって「想定外」の一撃であったことが、彼女の微笑みに繋がりました。
「お前を斬るまでだ」
主従関係を否定し、殺意を原動力にして隣を歩くことを決めたゼノス。
驯れ合うことのない二人の関係性は、まさに「刃と鞘」のような、鋭利で危うい信頼の形なのかもしれません。
ルナリエの言う「壊す側」とは一体何を指すのか。そしてゼノスの刃はどこまで届くのか。
第二部「新生魔王軍」の絆(?)が、少しずつ形作られていきます。
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