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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第二部:魔王の娘と新生魔王軍

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空虚な勝利と、残酷な報せ。――目指した背中は、もうそこにはない

魔法を捨て、無骨な黒鋼の剣一本で魔族の戦士を圧倒するまでになったゼノス。

かつて父を殺した「勇者フウガ」の影を追い、一歩ずつ、その理不尽なまでの強さに近づこうとしていました。

しかし、圧倒的な勝利の余韻に浸る間もなく、彼のもとに届いたのは、あまりに呆気ない「世界の終わり」のニュースでした。

「勇者フウガが――死んだらしい」

目標を失い、積み上げてきた努力すらも否定された瞬間、ゼノスの中で何かが弾けま

 風が、止まっていた。

 荒野の中央。

 砕けた岩と、焦げた地面。

 戦いの痕跡だけが残る場所に、二つの影が向かい合っている。

 一つは、魔族の戦士。

 重厚な鎧に身を包み、全身から濃密な魔力を滲ませている。

 そして、もう一つ。

 黒鋼の剣を担いだ、異質な存在。

 ゼノス。

「……本気で来い」

 低く、言う。

 対する魔族は、鼻で笑った。

「魔力も練らずに、よく言う。貴様のような落ちこぼれが――」

 言い終わる前に。

 ゼノスが、消えた。

「――は?」

 次の瞬間。

 鈍い音が響く。

 衝撃。

 魔族の体が、横に吹き飛ぶ。

 地面を転がり、岩を砕き、ようやく止まる。

「……なっ」

 何が起きたのか理解できないまま、魔族は立ち上がる。

 だが。

 もう遅い。

 目の前には、既にゼノスがいる。

 振りかぶられた黒鋼。

「――っ!」

 慌てて魔力を解放する。

 防御障壁。

 高密度の魔力が、全身を覆う。

 完璧な防御。

 そのはずだった。

 ――斬れる。

 鈍い音と共に。

 障壁が、裂けた。

「……は?」

 理解が追いつかない。

 魔力が、断たれている。

 防御も、理も。

 何もかも無視して。

 ただ、“重さ”だけが通る。

 そのまま。

 剣が、落ちる。

 勝負は、一瞬だった。

 地面に、魔族が倒れている。

 動かない。

 完全な、決着。

 周囲にいた魔族たちが、ざわめく。

「……なんだ、今のは」

「魔力を……使っていない?」

「ありえん……」

 視線が、ゼノスに集まる。

 畏怖。

 困惑。

 理解不能への恐れ。

 だが――

 当の本人は。

 ただ、立っていた。

 剣を持ったまま。

 動かない。

 何も言わない。

 勝利の余韻も、誇りも。

 何一つ、そこにはない。

 倒れている。

 確かに、勝ったはずだった。

 だが。

 何も、残らない。

 息も、乱れていない。

 心臓も、騒がない。

(……軽い)

 あまりにも。

 あっけない。

「……違う」

 小さく、呟く。

 視線を落とす。

 自分の剣。

 黒く、重い鉄。

 確かに、強くなった。

 魔法など使わずとも、圧倒できる。

 だが。

(……足りない)

 思い出す。

 あの日。

 炎を、斬った一閃。

 あれは。

 こんなものじゃなかった。

 もっと――

 圧倒的だった。

 理不尽だった。

 理解すら、許さない何かだった。

「……届かない」

 ぽつりと、漏れる。

 その言葉に。

 感情は、乗っていなかった。

 ただの、事実として。


「――聞いたか?」

 不意に。

 背後で、声がした。

 振り向かない。

 どうでもいい。

 そんなものより。

 今は――

「勇者フウガが――」

 一瞬。

 思考が、止まる。

「死んだらしい」

 静寂。

「……は?」

 間の抜けた声が、漏れた。

 思考が、追いつかない。

 意味が、分からない。

(……死んだ?)

 誰が?

 あの男が?

 あれが?

 ありえない。

 そんなはずがない。

 あれは――

 あんなものは――

 終わるはずがない。

 あの一閃が。

 あの存在が。

 こんな形で?

「……嘘だ」

 否定が、口から零れる。

 だが。

 続く言葉はない。

 証明もない。

 ただ。

 内側で、何かが軋む。

 積み上げてきたもの。

 削ってきたもの。

 捨ててきたもの。

 そのすべてが。

 行き場を失う。

「……ふざけるな」

 剣を握る手に、力が入る。

 初めて。

 感情が、滲む。

 怒りでも、悲しみでもない。

 もっと歪んだ何か。

「俺は……」

 言葉が、続かない。

 何のために。

 ここまで来たのか。

 何を目指していたのか。

 その中心が。

 消えている。

 空白。

 ぽっかりと空いた穴。

 埋めようがない。

 埋まるはずもない。

 ゼノスは、立ち尽くす。

 剣を持ったまま。

 動けない。

 進めない。

 戻れない。

 だが。

 足は、動いていた。

 どこへ向かうのかも分からないまま。

 それでも。

(……まだ、終わっていない)

 確かめなければならない。

 あれが本当に死んだのか。

 あの一閃が、本当に消えたのか。

 それだけが。

 今の、唯一の理由だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

魔力を断ち切るほどの強さを手に入れたゼノスでしたが、彼にとっては「フウガが残した絶望」こそが絶対的な基準。

その本人が死んだという噂は、彼にとって敗北以上の苦痛でした。

「ふざけるな」

この一言に、ゼノスのこれまでの数年間がすべて詰まっている気がします。

果たしてフウガは本当に死んだのか? それとも……。

この報せが、ゼノスをルナリエの待つ運命へと導いていくことになります。

続きが気になる!ゼノスの執着が熱い!と思ってくださった方は、ぜひ評価【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をお願いします。

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