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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第二部:魔王の娘と新生魔王軍

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15/20

魔導書を焼いた夜。――少年ゼノスが捨てた魔法と、握りしめた一振りの鉄

魔王城の廊下で、世界は静まり返っていました。

最強と信じた父の背中が崩れ落ち、魔族たちの誇りである魔法が、ただの「鉄」によって否定された瞬間。

少年ゼノスは、誰に呼び止められることもなく自室へと戻ります。

そこに積まれているのは、これまで彼が人生をかけて学び、積み上げてきた魔導書の山。

しかし、彼の瞳に映るのは、もはや術式の輝きではありませんでした。

すべてを灰に変え、彼が選んだのは、皮肉にも父を殺した「あれ」と同じ、無骨な剣の感触でした。

 ――音が、消えていた。

 さっきまで確かにあったはずの怒号も、炎の唸りも。

 何も、聞こえない。

ただ。

 崩れた背中だけが、そこにあった。

 誰かが、何かを叫んでいる。

「隊長が……!」

「魔法が破られた……!?」

「ありえない……そんなこと……!」

 言葉は聞こえる。

 だが、意味として届かない。

 視線は、ただ一点に固定されていた。

 地に伏した父の背中。

 動かない。

 もう、動かない。


(違う)

 頭の奥で、何かが静かに否定する。

(あれは……)

 周囲の魔族たちは混乱している。

 理解しようとしている。

 魔法の理屈で。

 結界がどうとか、相性がどうとか。

 そんなもので説明しようとしている。

(違う)

 あれは、そういう次元じゃない。

 魔法が破られたんじゃない。

 ――通用しなかった。


 視線を上げる。

 そこに、あの人間がいる。

 剣を持った、ただの男。

 何も変わらない。

 何も背負っていないみたいに、そこに立っている。

 血を浴びているはずなのに。

 何も感じていないみたいに。

 その目には。

 何もなかった。


 ゼノスは、ゆっくりと背を向けた。

 誰も、止めなかった。

 止める意味が、分からなかったのかもしれない。

 歩く。

 廊下を。

 崩れた壁の横を通り過ぎ、焦げた床を踏みしめながら。

 どこへ向かっているのかも、分からない。

 ただ、足が動いていた。


 気づけば、自分の部屋だった。

 扉を閉める。

 静寂。

 外の喧騒が、遠くなる。

 部屋の中央。

 机の上に、魔導書が積まれている。

 分厚い革表紙。

 精緻な術式。

 積み重ねてきた証。

 それを、しばらく見つめる。

 これがあれば。

 父と同じ場所に――

(……違う)

 その思考を、切り捨てる。

 あれは。

 届かなかった。

 どれだけ積み重ねても。

 どれだけ極めても。

 あの男には。

 届かない。


 魔導書を掴む。

 ためらいはなかった。

 床に投げる。

 次々と。

 積み上げてきたものを、すべて。

 火をつける。

 炎が、広がる。

 紙が歪み、文字が崩れ、術式が意味を失っていく。

 知識が焼ける。

 時間が焼ける。

 価値が、焼ける。

 見ていた。

 ただ、静かに。

 燃え落ちていくそれを。

 熱が、頬に触れる。

 その時になって。

 初めて、自分の顔が濡れていることに気づいた。

 涙だった。

 だが。

 拭おうとは思わなかった。

 理由が、分からなかった。


 視線を落とす。

 床に、一本の剣が転がっている。

 訓練用のものだ。

 装飾もない、ただの鉄。

 手を伸ばす。

 握る。

 重い。

 冷たい。

 無骨な感触。

 だが。

 それでよかった。

(……これだ)

 理由はない。

 理屈もない。

 ただ。

 確信だけがあった。

 あの男は。

 これで、すべてを壊した。

 魔法も。

 誇りも。

 父も。

 ならば。

 これで、いい。

 燃え落ちる魔導書。

 灰が、風に舞う。

 涙は、そのままにした。

 拭う理由が、分からなかった。

 剣を握る手に、力が入る。

「待っていろ、フウガ」

 その声には、何も乗っていない。

 怒りも。

 悲しみも。

 ただ――

 刃のように、冷たかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

積み上げてきたものを自ら燃やし、涙を流しながらも「理由が分からない」と言うゼノス。

彼の中で「魔法という世界の理」が死に、代わりにフウガという名の「呪い」が、新たな生きる目的となった瞬間でした。

第1部で「理外の力」を見せつけたフウガが、間接的に次の怪物を生み出していた……という展開、書いていて背筋が凍る思いです。

こうしてフウガに「壊された」者たちが、ルナリエの下でどう繋がっていくのか。

次回、物語はさらに加速します。

面白い、続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をお願いします。

現在、PVも着実に伸びており、皆様の反応が執筆の大きな支えになっています!

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