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裏切られた勇者は”剣神”に至る ~魔力ゼロの落伍者が、魔法の世界そのものを斬り裂く~  作者: 青茶とうご
第1章:異世界勇者編

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人の側から離れた日。聖剣の追っ手を鉄の棒一本で殲滅した「理外の力」と、突きつけられた残酷な拒絶

薪を割り、畑を耕し、魚を釣る。

そんな、名もなき青年として生きる穏やかな時間は、金属の擦れる音と共に終わりを告げました。

フウガを追う騎士団の襲来。

町の人々に向けられた刃。

彼らを守るためにフウガが手にしたのは、ただの「鉄の棒」でした。

しかし、その一振りが生み出したのは、勝利ではなく「絶望的なまでの隔絶」だったのです。

 その町での生活は、フウガにとって初めての「呼吸」だった。

 朝、薪を割る。

 昼、畑を手伝う。

 夕、川で魚を釣る。

 誰も、彼に「勇者」を求めなかった。

 魔族の子供が笑い、人間の老人が、それを当たり前のように見守る。

 そこには、優劣も、正義もなかった。

「フウガ、あんたの薪は綺麗だねぇ」

 老婆が笑う。

 フウガは、少し遅れて笑い返す。

 葉が落ち、風が冷たくなる頃には――その遅れが、少しだけ縮んでいた。

 ――そんな時間が、確かにあった。

 だからこそ。

 その音は、あまりにも異質だった。

 ――ギィ。

 金属が擦れる音。

 町の入口。

 重装の騎士たちが、道を塞いでいた。

「反逆者フウガを引き渡せ!」

 怒号が響く。

「聖剣が示した。貴様がここにいることは、最初から分かっていた」

「魔族と通じる汚物ども! 抗うなら皆殺しだ!」

 空気が、凍る。

 泣き出す子供。

 息を呑む大人。

 その前に――

 フウガは、立っていた。

(……聖剣が、示した)

 胸の奥で、何かが軋む。

 あの夜、リュミエルが託したものが――自分を追う道具になっている。

 だが、考える時間はなかった。

「……やめろ」

 低い声。

 だが、騎士は嗤う。

「自分から出てくるとはな、裏切り者」

 次の瞬間。

 剣が振られる。

 ――町の住人へ。

 見せしめ。

 血が、弾けた。

「……やめろ」

 もう一度。

 今度は、わずかに低い。

 足元に転がっていた鉄の棒を拾う。

 ただの鉄。

 だが――

 それで、足りた。

 踏み込む。

 世界が、遅れる。

 騎士の動きが、線になる。

 繋がりが見える。

 振る。

 ――何かが、消えた。

 音ではない。

 手応えでもない。

 ただ、“そこにあったはずのもの”が抜け落ちる。

 鎧が砕ける前に、騎士の動きが止まっていた。

 遅れて、吹き飛ぶ。

 もう一歩。

 もう一振り。

 同じことが起きる。

 斬っていない。

 壊してもいない。

 ただ――

 “成立していた何か”が、途切れる。

 数分も、かからなかった。

 気づけば。

 騎士団は、全て地に伏していた。

 風だけが、町を抜ける。

 静かすぎる静寂。

「……なんだ、今の」

 誰かが、呟く。

 助かったはずなのに。

 理解が追いつかない。

「……あれ、人間か?」

 ざわめきが広がる。

 距離が、開く。

 後ずさる音。

 その中で――

「フウガ様!」

 声が響く。

 振り返る。

 地下牢で、自分を逃がした兵士。

 血を流しながら、それでも立っている。

「無事で……よかった……」

 安堵したように笑う。

 その顔は、あまりにも普通で。

 だからこそ――

 浮いていた。

「……化け物だ」

 ぽつりと、落ちる。

 否定する声は、ない。

「違う!」

 兵士が叫ぶ。

「この人は――」

 言葉が、止まる。

 周囲の視線。

 怯え。

 距離。

 拒絶。

 それが、自分にも向いていると気づく。

 口が、動かない。

 続けられない。

 沈黙が、広がる。

 フウガは、その沈黙を聞いていた。

 責める声ではない。

 ただ――誰も、否定しない。

 それで、十分だった。

(……ああ)

 目を閉じる。

 理解する。

 ここでも、同じだ。

 守った。

 だから、壊れた。

 関わった。

 だから、歪んだ。

 場所は関係ない。

 結果は、変わらない。

(……残る方が、間違いか)

 手にしていた鉄の棒を、地面に置く。

 乾いた音。

 誰も拾わない。

 誰も近づかない。

 振り返らない。

 ただ、歩く。

 町の外へ。

 雪原へ。

「……待ってください!」

 背後から声。

 兵士の声。

 それでも――

 止まらない。

 止まれば、また壊す。

 分かっているから。

 風が、強くなる。

 白が、視界を埋める。

 足跡が残る。

 だが――

 すぐに、消える。

 何も残らない。

 最初から、いなかったように。

 背後の声は、やがて途切れた。

 それが最後だった。

 人の中で生きようとした、最後の痕跡。

 その日。

 フウガは――

 “人の側”から、離れた。

 戻る理由は、もうない。

 残っているのは、ただ一つ。

 選ぶこと。

 それだけだった。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

「守ったはずなのに、怖がられる」

これほどまでに悲しい報いがあるでしょうか。かつてフウガを逃がした兵士の「この人は――」という言葉が、誰にも届かずに消えていくシーンを書きながら、フウガの孤独が完成されていくのを感じました。

雪原に消えていく足跡のように、彼の中から「人として生きたい」という願いが消え去った第10話。

ここから、フウガは真の意味で【剣神】としての、あるいは「人ならざる者」としての道を歩み始めることになります。

この切ない幕切れに心が動かされた方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークで、雪の中を歩くフウガを応援していただければ幸いです。

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