表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境領に飛ばされた元官僚、数字だけで王国を立て直す 〜廃領再建から始まる、数字と制度の国家経営録〜  作者: 蒼井テンマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/36

第4話 盗賊の正体

 最初の異変は、夜明け前だった。


「領主様、報告があります」


 執務室に駆け込んできたのは、若い役人だった。顔色が悪い。


「南の農道で、荷馬車が襲われました。積荷は小麦です」


「怪我人は?」


「軽傷が一人。ただ……」


 役人は言い淀んだ。


「犯人が、妙に手際が良かったと」


 アレンはその一言で察した。


「……盗賊じゃないな」


 エリシアが眉をひそめる。


「では、何者ですか?」


「元兵士だ」


 アレンは即答した。


 装備を狙い、無駄な殺しをしない。補給路を把握し、短時間で撤退する。

 それは、訓練を受けた者の動きだった。


 現場へ向かう途中、アレンは周囲を観察した。

 畑には人が戻りつつあるが、治安維持の人手は圧倒的に足りない。


「……制度を直すと、必ず歪みが出る」


 独り言のように呟く。


 現場には、数人の農民が集まっていた。

 襲われた荷馬車は横倒しになり、周囲には争った跡が残っている。


「抵抗は?」


「ほとんど……。刃物を向けられて、終わりでした」


 農民は悔しそうに拳を握った。


「殺されなかったのが、不思議なくらいです」


 アレンはその言葉を聞き逃さなかった。


「殺す必要がなかったんだ」


「え?」


「目的は略奪じゃない。補給だ」


 アレンは立ち上がり、周囲を見渡す。


「この辺りに、野営の跡は?」


 少し離れた林の中。

 踏み固められた地面と、焚き火の痕跡が見つかった。


「……やはり」


 そこへ、無骨な男が現れた。


「領主さんか」


 筋骨隆々。傷だらけの顔。

 だが、その立ち姿は、明らかに素人ではない。


「俺はガルド・バルクス。……元、王国兵だ」


 エリシアが息を呑む。


「なぜ、こんなことを?」


 ガルドは、しばらく黙ってから答えた。


「金がない。仕事もない。だが、生きる必要はある」


「兵役は?」


「終わった」


 短い答えだった。


「戦争が終われば、兵は捨てられる。よくある話だ」


 アレンは頷いた。


「人数は?」


「二十ほど」


「全員、元兵士か」


「ああ」


 沈黙が落ちる。

 エリシアは、今にも叫び出しそうな表情だった。


「捕らえますか?」


 彼女の問いに、アレンは首を振った。


「雇う」


「……はい?」


 ガルドが目を見開いた。


「治安隊を作る。正式な仕事だ」


「冗談だろ」


「本気だ」


 アレンは一歩前に出た。


「条件がある。略奪は二度としない。違反すれば即解雇だ」


「給料は?」


「最低限は保証する。だが、成果連動だ」


「成果?」


「盗賊を減らし、農道を守り、流通を回す。その結果、収穫が増えれば、分け前も増える」


 ガルドは黙り込んだ。


 しばらくして、低く笑う。


「……合理的だな」


「無駄は嫌いでね」


 その日の夕方。

 臨時の治安隊が編成された。


 元盗賊が、治安を守る側に回る。

 農民たちは不安そうだったが、ガルドの号令一つで、隊列が整うのを見て、空気が変わった。


「……あの人たち、本当に兵だったんだ」


 エリシアが呟く。


「ああ」


 アレンは答えた。


「捨てられただけだ」


 数日後。

 盗賊被害は激減した。


 正確には、「消えた」。


 なぜなら、盗賊そのものが、もう存在しなかったからだ。


 夜。

 ガルドが報告に来た。


「周辺の盗賊団、全て解散させた。仕事があると伝えただけだ」


「死人は?」


「ゼロだ」


 アレンは満足そうに頷いた。


「これで、治安費は無駄じゃなくなった」


 エリシアは、しばらく黙っていたが、やがて言った。


「……あなたは、剣を使わずに戦う人ですね」


「剣は、最後の手段だ」


 アレンは帳簿を閉じる。


「人は、役割を与えれば、敵じゃなくなる」


 その夜、領内を巡回する松明の数が増えた。

 畑も、道も、守られている。


 だが同時に、アレンは理解していた。


 治安が回復すれば、次に見られるのは――数字だ。

 成果は、必ず中央に届く。


 つまり。


「……そろそろ、目を付けられるな」


 改革は、静かには終わらない。

 ここからが、本番だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ