第35話 それでも国は壊れる
決定は、部分的だった。
一律増税は、凍結された。
ただし、全面ではない。
地域裁量も、認められた。
ただし、期限付きだ。
どれも、中途半端。
だが——
それで十分だった。
「……数字が、止まりました」
財務局の報告に、誰かが小さく息を吐く。
「徴税効率の低下は、下げ止まり」
「物流量も、横ばいです」
回復ではない。
停止だ。
崩れ続けていたものが、
“これ以上は壊れない”状態になった。
地方では、小さな変化が起きていた。
備蓄を売り払うのを、やめる。
工事を、最低限再開する。
人を、完全には手放さない。
誰も歓声を上げない。
ただ、生き延びる選択をしただけだ。
「……内乱は、起きませんでしたね」
エリシアが、静かに言う。
「起こさない設計にした」
アレンは、そう答えた。
「怒りは、溜め込むと爆発する」
「吐き出し口を作れば、燃え上がらない」
その吐き出し口が、
形骸化した統治連合だった。
決定権はない。
だが、不満は集まる。
集まった不満は、
衝突せず、滞留する。
「……歪んだ仕組みですね」
「歪みは、元からだ」
アレンは否定しない。
「歪みを、選んだだけだ」
国境では、
兵が動くことはなかった。
外交も、最低限で済んだ。
誰も勝っていない。
だが、誰も負け切ってもいない。
王都では。
「……英雄は、出なかったな」
ダリウスが、ぽつりと呟く。
「ええ」
ユリウスが答える。
「ですが、戦争は起きていません」
「それで、十分か」
「十分です」
評価は、地味だった。
だが、確かだ。
数年後。
国は、縮んでいた。
領域は減り、
制度は簡素になり、
影響力も落ちた。
それでも——
地図から、消えてはいない。
辺境で。
アレンは、相変わらず数字を見ていた。
役職は、ない。
称号も、ない。
だが、彼の試算表は、
今も、どこかで使われている。
「……終わった、んですかね」
エリシアが、そっと聞く。
「いや」
アレンは、首を振った。
「終わったのは、時代だ」
国は、壊れた。
だが——
壊れ方は、選ばれた。
それだけで、
十分だった。
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