第34話 最後の助言
呼び出しは、公式だった。
場所は、中央評議院。
だが、議席は少ない。
傍聴も、記録官もいない。
最終確認の場だ。
「……来てくれて、感謝する」
宰相ダリウスが、そう切り出した。
アレンは、礼も形式も省いた。
「用件は、分かっています」
数字が、限界に近づいている。
誰も責任を取らない状態が、持たなくなっている。
「一つだけ、聞きたい」
ダリウスは、真っ直ぐに言う。
「今からでも、この国を救う方法はあるか?」
沈黙。
その問いは、重い。
だが、アレンは迷わなかった。
「ありません」
即答だった。
場の空気が、凍る。
誰もが、その可能性を恐れていた。
だが、口に出されると耐えられない。
「……そうか」
ダリウスは、深く息を吐いた。
「では、戦争は?」
「避けられます」
今度は、間を置かずに答える。
「内乱は?」
「起こさずに済みます」
「……では、何が起きる」
アレンは、少しだけ言葉を選んだ。
「国は、縮みます」
「制度は、簡素化されます」
「今の形では、続きません」
それは、敗北宣言だった。
だが、破滅宣言ではない。
「できるのは」
アレンは、続ける。
「“崩れ方を選ぶ”ことだけです」
彼は、資料を一枚置いた。
「一律増税の一部凍結」
「地域裁量の即時承認」
「徴税目標の下方修正」
誰かが、息を呑む。
「……弱くなるな」
「ええ」
アレンは、否定しない。
「ですが、壊れにくくなります」
数字は、残酷だ。
無理をすれば、反動が来る。
無理をしなければ、
ゆっくりと、別の形になる。
「統治連合は?」
ユリウスが、静かに問う。
「使えます」
アレンは、即答した。
「決定機関としてではない」
「緩衝材として」
形骸化した組織。
だからこそ、政治的衝突を吸収できる。
「……評価されない方法だな」
ダリウスが、苦く笑う。
「ええ」
アレンも、笑わなかった。
「英雄は、出ません」
「成功も、分かりません」
ただ——
最悪が、来ない。
それだけだ。
長い沈黙の後。
ダリウスが、言った。
「提案は、受け取る」
「全ては、採用されません」
「承知しています」
アレンは、頷いた。
「部分的でも、十分です」
それが、彼の仕事だ。
会議が終わる。
廊下で、エリシアが待っていた。
「……どうでした?」
「国は、救われない」
アレンは、正直に答えた。
「でも、滅びない」
それが、到達点だった。
英雄には、なれない。
だが——
瓦礫の下敷きになる人間を、
減らすことはできる。
それで、いい。
アレンは、そう信じていた。
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