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辺境領に飛ばされた元官僚、数字だけで王国を立て直す 〜廃領再建から始まる、数字と制度の国家経営録〜  作者: 蒼井テンマ


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第33話 誰も責任を取らない

 会議は、静かだった。


 怒号も、罵声もない。

 あるのは、丁寧な言葉だけだ。


「徴税効率の低下は、想定の範囲内です」


 財務官僚の一人が、落ち着いた声で言う。


「制度変更直後ですから」

「いずれ、現場は適応します」


「“適応”とは、具体的に?」


 別の官僚が、確認するように尋ねた。


「……時間をかけて、という意味です」


 その言葉に、誰も異を唱えなかった。


 時間。

 それは、最も便利な言い訳だ。


「地方から、不満の声は?」


「公式な抗議は、ありません」


「なら、問題は表面化していない」


 議事録には、そう残る。


 表面化していない。

 つまり、存在しない。


 王都の会議室は、それで納得する。


 一方、資料の隅。


 小さく添えられた表があった。

 “参考資料”。


 徴税額の推移。

 物流量の微減。

 備蓄の減少。


 名前は、書かれていない。

 だが、誰の数字かは分かる。


「……この試算は?」


 若い官僚が、恐る恐る聞いた。


「外部顧問のものだ」


 ユリウスが、淡々と答える。


「だが、議題にはしない」


 若い官僚は、口をつぐんだ。


 正しい数字でも、

 責任を伴うものは、使いにくい。


 会議は、結論を出した。


 ――現行税制を維持。

 ――状況を注視。

 ――必要があれば、再検討。


 誰も間違っていない。

 だが、誰も決めていない。


 夜。

 アレンは、その議事録の写しを見ていた。


「……きれいだな」


「きれい、ですか?」


 エリシアが、意外そうに聞く。


「責任の所在が、どこにもない」


 それが、きれいだという感覚は、

 彼女には、まだ理解しきれない。


「このままだと」


 エリシアが、言葉を選ぶ。


「……もっと悪くなりますよね」


「悪くなる」


 アレンは、即答した。


「だが、“誰のせいか”は分からない形でな」


 数日後。

 地方からの報告が、増え始めた。


 税の遅延。

 公共工事の停止。

 雇用の縮小。


 どれも、小さい。

 だが、連鎖している。


「……現場の判断ミスでは?」


 王都では、そんな声も出始める。


「指示は出ている」

「従えなかったのは、地方だ」


 責任は、下へ流れる。


 アレンは、その流れを見ていた。


 止められない。

 止める権限がない。


 だが——

 完全に無視されてもいない。


 数日後。

 ユリウスが、個人的に訪ねてきた。


「……あなたの試算」


「議題には、ならなかったでしょう」


「ええ」


 ユリウスは、否定しない。


「ですが、使っています」

「非公式に」


 アレンは、わずかに笑った。


「一番、面倒な使われ方ですね」


「ええ」


 ユリウスも、同意した。


「名前を出せないが」

「無視もできない」


 沈黙。


「では、なぜ呼んだ?」


 アレンが、問う。


「……次の段階が、近い」


 ユリウスは、低い声で言った。


「“誰も責任を取らない”状態は」

「長くは、続きません」


「いずれ、誰かが選ばれる」


 スケープゴートだ。


 アレンは、理解した。


「……私か」


「可能性は、高い」


 ユリウスは、正直だった。


「だから」

「一度だけ、正式に意見を聞く場を」

「設けるかもしれません」


 それは、救済ではない。

 最終確認だ。


「分かりました」


 アレンは、静かに答えた。


「その時は、話します」


 国は、まだ壊れていない。

 だが——


 壊れ始めた時、

 誰が責任を取るのか。


 その準備だけは、

 着々と進んでいた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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