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辺境領に飛ばされた元官僚、数字だけで王国を立て直す 〜廃領再建から始まる、数字と制度の国家経営録〜  作者: 蒼井テンマ


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第30話 必要悪

 結論は、会議では出なかった。


 統治連合の定例報告。

 数字は、悪くない。


 壊れてはいない。

 だが、良くもなっていない。


「……安定、ですかね」


 王都派遣の管理官が、そう言った。


 誰も否定しない。

 だが、誰も肯定もしない。


 安定とは、停滞の言い換えでもある。


 一方、国境では——

 何も起きていなかった。


 侵攻も、小競り合いもない。

 静かすぎるほど、静かだ。


「……助かったな」


 ラグナが、低く言う。


「偶然だ」


 誰かが、そう答えた。


 だが、誰も本気では信じていない。


 夜。

 王都、宰相府。


「結局、何が起きた?」


 ダリウスの問いに、ユリウスは資料を置いた。


「侵攻は、準備段階で止まりました」

「原因は、不明です」


「不明、か」


「公式には」


 ユリウスは、少し間を置いて続ける。


「非公式には」

「兵站が、成立しなかった可能性が高い」


 ダリウスは、指で机を叩いた。


「誰が、崩した?」


「証拠はありません」


 それが、全てだった。


「……彼だと思うか?」


「ええ」


 ユリウスは、迷わず答えた。


「やり方は、危険です」

「制度を無視している」


「だが、結果は出た」


 ダリウスは、ゆっくりと言う。


「起きるはずだった戦争が、起きなかった」


 沈黙。


「処分は、妥当だったか?」


「はい」


 ユリウスは頷く。


「権限を持たせれば、次は越えます」

「持たせなければ、静かに越える」


 ダリウスは、短く笑った。


「厄介だな」


「ええ」

「だからこそ——」


 ユリウスは、言葉を切る。


「切れません」


 結論だった。


 翌日。

 辺境。


 アレンは、いつも通り倉庫にいた。

 数字を見て、地図を見る。


 指示は出さない。

 決定もしない。


 だが——

 周囲は、彼の動きを見ている。


「……本当に、これで良かったんですか?」


 エリシアが、ぽつりと聞いた。


「良かった、とは言えない」


 アレンは、正直に答える。


「だが、最悪ではない」


 それが、彼の基準だった。


 英雄には、ならなかった。

 権力者にも、なれなかった。


 だが——

 国が壊れる速度は、確かに遅くなっている。


 それを、誰も記録しない。

 誰も、称えない。


 それでも。


「……それでいい」


 アレンは、静かに呟いた。


 統治連合は、国を救わなかった。

 だが——


 国が壊れる速度を、

 ほんの少しだけ、

 遅らせた。


 そして、王都は理解した。


 彼は、危険だ。

 だが、必要だ。


 必要悪として。

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