第31話 数字は、国を平等にしない
増税案は、静かに進んでいた。
王都では、それを「必要な調整」と呼ぶ。
戦争準備、治安維持、備蓄拡充。
理由はいくらでも並べられる。
「……一律、二割ですか」
アレンは、回覧資料を一枚めくった。
税率表は、簡潔だった。
だからこそ、危険でもある。
「分かりやすい案ですね」
エリシアが言う。
「反対しにくい」
「反対は、出る」
アレンは淡々と答えた。
「ただし、遅れてな」
彼は、地図を広げる。
そこに重ねるのは、収穫量と人口分布。
「同じ二割でも、意味が違う」
穀倉地帯。
商業都市。
辺境。
同じ税率は、同じ負担を意味しない。
「数字は、平等だ」
アレンは、指で表をなぞる。
「だが、人の生活は平等じゃない」
数日後。
非公式の意見交換会が開かれた。
表向きは、専門家ヒアリング。
実態は、地ならしだ。
「一律増税は、迅速です」
官僚の一人が言う。
「制度変更の手間も少ない」
「だから選ばれる」
アレンは、そう返した。
「だが、持続しない」
空気が、わずかに張る。
「なぜです?」
「商業地は耐える」
「穀倉地帯も、工夫できる」
アレンは、地図を指す。
「だが、辺境は違う」
「耐えた瞬間、終わる」
それは、脅しではない。
計算結果だ。
官僚たちは、言葉を失う。
「では、代案は?」
誰かが聞いた。
「税率を変える?」
「違う」
アレンは首を振る。
「“取り方”を変える」
彼は、静かに続ける。
「現金だけで取るから、詰まる」
「現物、労役、地域差」
「……複雑になりますね」
「ええ」
アレンは、即答した。
「だから、嫌われます」
沈黙。
複雑な制度は、説明が必要だ。
説明は、責任を生む。
王都は、それを嫌う。
「それでも」
アレンは、最後に言った。
「一律二割よりは、壊れません」
その場では、結論は出なかった。
だが、数日後。
アレンの試算表が、資料に添付された。
小さな注釈。
「参考」。
それだけで、十分だった。
エリシアが、小さく笑う。
「……また、影ですね」
「影でいい」
アレンは、そう答えた。
「光に出ると、壊れる」
彼は理解している。
税は、国を支える。
同時に、国を壊す。
そして——
数字は、国を平等にはしない。
平等にするには、
不公平な設計が必要だ。
その事実を、
王都が受け入れるかどうかは——
まだ、分からない。
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