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辺境領に飛ばされた元官僚、数字だけで王国を立て直す 〜廃領再建から始まる、数字と制度の国家経営録〜  作者: 蒼井テンマ


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第26話 越権

 決定は、出なかった。


 国境情勢についての会議は、三時間に及んだが、

 結論はいつも同じところに戻る。


 ――正式な侵攻は確認されていない。

 ――よって、軍事行動は時期尚早。


「……つまり、何もしない」


 ラグナの言葉に、誰も反論しなかった。


 正確には、“できない”だ。


 証拠がない。

 宣戦理由がない。

 動けば、挑発になる。


 会議が終わった後、エリシアが小さく言った。


「……来ますよね」


「ああ」


 アレンは、短く答えた。


「来る前に、終わらせる」


 その夜。

 アレンは、古い帳簿を机に広げていた。


 連合名義ではない。

 王都の管理下にもない。


 個人の記録。

 かつて、商会と交わした契約の写し。


「……まだ、生きているな」


 翌日から、動きは始まった。


 穀物の売買が、わずかに変わる。

 価格は維持されたまま、量だけが減る。


 北部街道を通る商隊が、遠回りを始めた。

 理由は単純だ。


 ――安全だから。


 ガルドが、低い声で報告する。


「商人たちは、理由を聞かない」

「“条件がいい”と思えば、動く」


「それでいい」


 アレンは頷いた。


「理由を知れば、記録が残る」


 数日後。

 国境近くの倉庫が、静かに空になった。


 略奪ではない。

 封鎖でもない。


 ただ——

 物が、なかった。


「……妙だな」


 隣国側の斥候は、そう報告したという。


「狙っていたはずの備蓄が、どこにもない」


 もちろん、その報告は公式には残らない。


 残るのは、市場価格の微調整。

 流通経路の変更。

 偶然の積み重ね。


 エリシアが、不安そうに言った。


「これ、完全に越えてますよね」


「越えている」


 アレンは、はっきり答えた。


「だから、記録を残さない」


 数週間後。

 国境付近での動きは、止まった。


 武装した集団は、引いた。

 理由は分からない。


 ただ、準備していた“はず”の侵攻は、

 始まらなかった。


 王都からの報告は、簡潔だった。


 ――情勢に変化なし。

 ――警戒を継続。


 ラグナが、苦々しく言う。


「……何もなかった、か」


「公式にはな」


 アレンは、そう答えた。


 だが、数字は嘘をつかない。


 穀物相場は、元に戻りつつある。

 異常な買い付けは、消えた。


 夜。

 アレンは、帳簿を閉じた。


「……終わったな」


 救ったとは、言えない。

 勝ったとも、言えない。


 ただ——

 起きるはずだった何かが、

 起きなかった。


 その事実だけが、残った。


 翌朝。

 王都から、静かな問い合わせが届く。


 ――最近の市場変動について、説明を求める。


 アレンは、紙を見つめ、微かに笑った。


「……説明できるなら」

「越権には、ならない」


 彼は理解していた。


 これは、成功ではない。

 評価も、称賛もない。


 ただの——

 記録に残らない介入だ。


 そして、こういう行為ほど、

 政治は、決して許さない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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