第25話 兵站の影
異変は、数字より先に現場に出た。
「……妙です」
ガルドが、珍しく慎重な声で言った。
「北の街道を通る商隊が、減っています」
「理由を聞くと、皆、同じことを言う」
「何だ」
「“向こう側が、動いている”と」
向こう側。
つまり、国境の先だ。
アレンは、静かに地図を広げた。
「……隣国か」
エリシアが息を呑む。
「でも、正式な通達は——」
「ないだろう」
アレンは、淡々と答えた。
「だから、問題なんだ」
数日後。
王都管理官からの報告が届いた。
――隣国との関係に、変化は確認されていない。
――不要な憶測を広めないよう留意せよ。
「“憶測”か」
アレンは、紙を机に置いた。
だが、数字は違うことを示している。
穀物の取引量が、微減。
相場が、じわじわと上がっている。
特定地域への流通が、偏っている。
「……買われていますね」
マリナが、低い声で言う。
「しかも、痕跡を残さない形で」
ラグナが、険しい表情になる。
「備蓄だな」
「軍だ」
その言葉で、空気が張りつめた。
「王都は?」
「まだ、動かない」
アレンは首を振る。
「正式な挑発がない限り、動けない」
それは、制度の限界だった。
翌週。
連合外の村で、小競り合いが起きた。
盗賊ではない。
武装も、揃っている。
「……偵察ですね」
ラグナが、断言する。
「試している」
アレンは、拳を握った。
だが——
動けない。
治安権限は、制限されている。
連合としての軍事行動は、王都承認が必要だ。
「このままでは」
エリシアが、焦りを隠さず言う。
「本当に、来ます」
「来る」
アレンは、静かに答えた。
「そして来た時には」
「もう、制度は間に合わない」
その夜。
アレンは、一人で倉庫を見回っていた。
積み上げられた穀物。
人々の生活。
領地の命綱。
「……奪わせるわけには、いかない」
だが、今の彼は——
命令権を持たない。
翌朝。
王都からの正式通達。
――国境情勢について、引き続き注視。
――過剰な備えは、緊張を高める。
紙を読み終えたアレンは、ゆっくりと息を吐いた。
「……来るな、これは」
ガルドが、低く言う。
「どうします?」
アレンは、すぐには答えなかった。
制度を守るか。
越えるか。
その選択が、
すぐそこまで迫っている。
兵站は、静かだ。
だが——
戦争は、いつも
静かなところから始まる。
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