第23話 離脱
南部領の離脱は、公式に発表された。
――統治連合試験区からの離脱。
――理由:経済的負担の不均衡、および現場機能の低下。
文面は冷静だった。
だが、その一行一行が、連合の信用を削っていく。
「……想像以上に、広がっています」
エリシアが、情報をまとめた紙を差し出す。
「他領でも、“連合は万能ではない”という声が出始めました」
「当然だ」
アレンは、淡々と答えた。
「成功例より、失敗例の方が早く伝わる」
ラグナが、苛立ちを隠さず言う。
「南部の件、俺たちの責任じゃない」
「最初から無理があった」
「そう言っても、外からは同じだ」
マリナが、静かに言った。
「連合が、守れなかった」
「それが、事実です」
沈黙。
事実は、言い訳を許さない。
数日後。
王都から、正式な召喚状が届いた。
――統治連合代表調整役、出頭要請。
「……来ましたね」
エリシアの声は、低い。
「責任を、取りに行く」
アレンは、そう答えた。
中央評議院。
以前よりも、空気が重い。
今回は、拍手も好奇の視線もない。
あるのは、評価と処理の目だ。
「南部領の離脱について」
宰相ダリウスが、静かに切り出す。
「どう説明する?」
アレンは、一瞬だけ目を閉じた。
「制度が、現場に追いつかなかった」
「他人事のようだな」
「事実です」
アレンは、視線を逸らさない。
「判断を遅らせたのは、私です」
場が、わずかにざわつく。
責任を認めるのは、予想外だった。
「では問おう」
ダリウスが続ける。
「連合は、失敗だったのか?」
この問いは、罠だった。
「失敗です」
アレンは、即答した。
空気が、凍る。
「正確には」
彼は、続ける。
「“今の形”では、失敗です」
評価を切り分ける。
制度の失敗と、理念を分ける。
「連合が不要だとは思っていません」
「だが、段階を誤った」
ダリウスは、興味深そうに目を細めた。
「では、責任は?」
「私にあります」
アレンは、はっきり言った。
「代表調整役として、決断を先延ばしにした」
沈黙。
ユリウスが、静かに口を挟む。
「……では、管理体制の見直しが必要ですね」
「はい」
アレンは、頷いた。
「現場判断の裁量を——」
「それは、危険だ」
ダリウスが遮る。
「今回の失敗は、裁量不足ではなく」
「管理不足だ」
言葉が、ひっくり返された。
王女セレナが、初めて口を開く。
「……連合は、まだ必要です」
「ですが」
視線が、アレンに向く。
「今の体制では、続けられない」
結論は、すでに決まっていた。
「代表調整役の権限を、一時凍結する」
ダリウスが、淡々と告げる。
「代わりに、王都主導の管理官を置く」
その言葉で、全てが決まった。
アレンは、何も言わなかった。
言える言葉は、もうない。
王都を出た後。
エリシアが、堪えきれず言った。
「……納得できますか?」
「納得は、していない」
アレンは、正直に答える。
「だが、責任は取った」
それが、政治だ。
辺境へ戻る馬車の中。
アレンは、窓の外を見つめていた。
連合は、崩れた。
自分の権限も、失った。
だが——
「……まだ、終わっていない」
彼は、静かに呟く。
制度が壊れたなら、
次は——
制度の外で、守るしかない。
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