第22話 制度を守るという選択
委員会の議題は、一つだった。
――南部領の離脱要請について。
会議室の空気は、張りつめている。
全員が、この判断の重さを理解していた。
「結論を急ぐ必要はありません」
ユリウスが、穏やかに口を開く。
「感情的な判断は、後悔を生みます」
「まずは、追加資料を——」
「時間がない」
ラグナが遮る。
「現場は、もう限界だ」
マリナが、数字を示す。
「南部領の倉庫稼働率は四割以下」
「物流停止が続けば、完全に赤字です」
事実は、揃っていた。
アレンは、黙ってそれを見ている。
頭の中で、二つの道が並んでいた。
一つは、即断。
委員会を無視し、権限を行使する。
現場に人と物を突っ込む。
もう一つは、制度。
合議。
手続きを踏む。
前者は、速い。
後者は、正しい。
「……今回は、制度を守る」
アレンは、静かに言った。
ラグナが、目を見開く。
「本気か?」
「本気だ」
アレンは、視線を逸らさない。
「ここで踏み越えれば、委員会の意味がなくなる」
「連合は、“一人の判断”で動く組織になる」
エリシアが、言葉を失う。
マリナは、唇を噛んだ。
「……理解はできます」
「ですが、数字は——」
「数字も、制度の一部だ」
アレンは、そう言った。
それは、自分に言い聞かせる言葉でもあった。
結論は、出なかった。
南部領の離脱要請は、保留。
追加検討。
次回持ち越し。
委員会は、形式通りに終わった。
その夜。
エリシアが、低い声で言う。
「……行くべきでは?」
「行かない」
アレンは、短く答えた。
「今は、行かない」
それが、選択だった。
三日後。
報告が入った。
「南部領、主要倉庫が閉鎖」
「職人の半数が、他領へ流出」
エリシアは、紙を握りしめる。
「……間に合いませんでした」
さらに二日後。
「南部領主、連合からの実質離脱を宣言」
公式文書。
撤回不能。
ラグナが、机を叩いた。
「終わったな」
マリナは、目を伏せた。
「数字は……想定通りです」
アレンは、何も言わなかった。
言葉が、出なかった。
その夜。
一人で帳簿を閉じる。
そこにあるのは、冷たい現実だけだ。
「……正しかったのか」
誰に向けた問いでもない。
制度を守った。
秩序を優先した。
独裁を避けた。
それでも——
一つの領地が、沈んだ。
翌朝。
王都からの通達が届く。
――統治連合の管理体制について、再検討を行う。
アレンは、紙を置いた。
理解していた。
この失敗は、利用される。
そして、次に来るのは——
責任だ。
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