第20話 委員会という名の枷
常設委員会は、迅速に設置された。
名目は明快だ。
――透明性の確保。
――権限の分散。
――責任の明確化。
参加者は七名。
連合領主三名。
実務担当二名。
王都監督官一名。
そして、議長役として——アレン。
「……思ったより、多いな」
初会合で、ラグナが率直に言った。
「少なすぎるよりはいいでしょう」
ユリウスは、穏やかに返す。
「多様な視点は、誤りを防ぎます」
その言葉に、誰も反論しなかった。
問題は、数ではない。
速度だ。
「では、南部領への追加支援について」
アレンが議題を切り出す。
「現状、物流停滞が続いています」
「現場判断では、追加人員投入が必要です」
マリナが数字を示す。
「三週間遅れれば、赤字が拡大します」
ラグナが頷く。
「今決めろ。時間がない」
だが、ユリウスは首を傾げた。
「その追加人員の選定基準は?」
「将来的な前例として妥当ですか?」
空気が、わずかに止まる。
「……今は、現場の話だ」
ラグナが低く言う。
「基準を作る時間はない」
「だからこそ」
ユリウスは、即座に返す。
「基準なしの判断は危険です」
正論だった。
結論は、出なかった。
追加資料の提出。
影響範囲の再検討。
次回会合へ持ち越し。
会合は、二時間で終わった。
だが、何も決まっていない。
その翌日。
南部領から、報告が届いた。
「倉庫一棟、使用停止」
「人員、三割離脱」
エリシアが、唇を噛む。
「……間に合いませんでした」
「分かっている」
アレンは、静かに答えた。
だが、表情は硬い。
数日後、再び委員会。
「状況が悪化しています」
マリナが言う。
「今なら、まだ——」
「お待ちください」
ユリウスが手を上げる。
「前回の資料では、想定が甘かった」
「今回は、より慎重に」
ラグナが、机を叩いた。
「慎重すぎる!」
「それは、結果論です」
ユリウスは、冷静だった。
「失敗すれば、責任は誰が?」
沈黙。
責任。
その言葉は、重い。
結局、決定は一週間遅れた。
その間に、南部領は完全に失速した。
「……支援は、もう意味が薄い」
マリナの声は、冷たい。
「立て直すには、倍のコストが要ります」
ラグナが、吐き捨てる。
「だったら、最初からやれ」
ユリウスは、静かに言った。
「それが、制度です」
夜。
アレンは、一人で帳簿を見ていた。
数字は、正直だ。
委員会設置後、意思決定速度は半減。
損失は、確実に増えている。
「……制度が、現場を殺している」
だが、それを口に出すと——
「独裁者」と言われる。
エリシアが、低く言った。
「このままだと、連合は……」
「崩れる」
アレンは、即答した。
「善意でな」
彼は理解していた。
王都は、間違っていない。
制度も、正しい。
だが——
「正しさは、速度を保証しない」
その夜、ユリウスは王都へ報告書を書いていた。
――委員会制度、順調に稼働。
――一部領地で停滞あり。
――さらなる管理強化が望ましい。
その文章を読めば、
失敗の責任は、現場にある。
アレンは、まだ知らない。
この委員会が、
「守るための制度」から
「縛るための制度」に
変わり始めていることを。
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