第19話 善意の介入
王都からの使者は、予定より早く到着した。
「監査ではありません」
最初にそう言った時点で、誰も信じなかった。
使者ユリウス・カーン。
宰相府直属の官僚。
整えられた服装、柔らかな口調。
「今回は、助言と確認です」
「統治連合は、王国としても重要な試みですから」
会議室には、連合の領主たちが集まっていた。
ラグナは、露骨に腕を組む。
「助言、ね」
「便利な言葉だ」
ユリウスは気にした様子もなく、書類を広げた。
「南部領への支援」
「期限付き、条件付き」
「合理的です」
マリナが、即座に言う。
「数字上は、最善です」
「ええ」
ユリウスは微笑んだ。
「ですが、王都としては一点だけ懸念があります」
その“だけ”が、重い。
「この支援は、誰が決めましたか?」
視線が、自然とアレンに集まる。
「代表調整役です」
ユリウスは頷いた。
「つまり、実質的な決定権が集中している」
言葉は丁寧。
だが、刃がある。
「それは、連合の理念に反しませんか?」
沈黙。
「合議制を掲げながら」
「重要局面では、一人が決めている」
正論だった。
ラグナが、低く言う。
「じゃあどうしろと?」
「簡単です」
ユリウスは、書類を一枚差し出した。
「支援判断は、常設委員会で行う」
「王都から、監督官を一名置く」
空気が、凍った。
エリシアが声を抑えて言う。
「……それは、直轄に近い」
「いいえ」
ユリウスは即座に否定する。
「透明化です」
「責任の所在を明確にするだけ」
誰も、反論できない。
制度としては、正しい。
アレンは、しばらく沈黙した後、口を開いた。
「質問を」
「どうぞ」
「この提案は、義務ですか?」
ユリウスは、にこやかに答えた。
「推奨です」
その言葉の裏を、全員が理解した。
「拒否すれば?」
「……連合の在り方について」
「再検討が必要になるでしょう」
つまり、試験終了だ。
ラグナが、舌打ちする。
「上手いな」
ユリウスは、微笑みを崩さない。
「国家とは、そういうものです」
会議は、結論を出さなかった。
だが、方向は決まった。
夜。
エリシアが、静かに言う。
「一歩、踏み込まれましたね」
「善意でな」
アレンは答える。
「だから、厄介だ」
彼は、帳簿を閉じた。
王都は、殴らない。
奪わない。
ただ——
「正しい形に、直そうとしている」
その“正しさ”が、
現場を殺すこともある。
アレンは理解していた。
ここからは、制度と制度の戦いだ。
剣ではなく、署名で負ける。
そしてその戦いは——
ゆっくり、確実に、首を絞めてくる。
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