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辺境領に飛ばされた元官僚、数字だけで王国を立て直す 〜廃領再建から始まる、数字と制度の国家経営録〜  作者: 蒼井テンマ


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第18話 歪みの兆し

 数字は、静かに嘘をつかなかった。


 統治連合の物流が動き始めて、三週間。

 最初の報告書を前に、会議室の空気は重かった。


「……中央河川港、流通量は計画比九割」

「全体としては、順調です」


 マリナの報告に、何人かが頷く。


 だが、続く一文で、空気が変わった。


「ただし——南部領の出荷量が、著しく低下しています」


 沈黙。


 アレンは、視線を上げずに問い返した。


「理由は?」


「人手不足」

「倉庫管理が追いついていない」

「治安コストの増大」


 報告は淡々としていたが、内容は重い。


「……うちの話だな」


 南部領主が、低い声で言った。

 疲れが、隠せていない。


「連合の基準に合わせた結果、現場が回らなくなった」


 ラグナが腕を組む。


「基準が高すぎたか?」


「違う」


 南部領主は首を振る。


「今まで、回っていなかっただけだ」

「無理をして、回そうとした」


 それは、責められない理由だった。


 連合の制度は、最低ラインを引き上げる。

 だが、引き上げられない場所もある。


「負担は、どれくらいだ?」


 アレンの問いに、マリナが答える。


「治安費、二割増」

「人件費、三割増」

「短期的には、赤字です」


 会議室が、ざわつく。


「連合全体は黒字だ」

「だが、一部が沈んでいる」


 誰かが言った。


「……補填すべきか?」


 その一言で、視線が交差した。


 補填。

 それは、連合として初めて直面する問いだった。


「やれば、前例になる」


 ラグナが言う。


「甘えが出る」


「やらなければ、離脱が出る」


 マリナが返す。


「数字は、そう言っている」


 アレンは、すぐに答えなかった。


 これは、正解のない問題だ。

 制度の正しさと、人の限界がぶつかっている。


「……三ヶ月だ」


 アレンは、ようやく口を開いた。


「期限付きで、支援する」


 南部領主が、顔を上げる。


「条件は?」


「二つ」


 アレンは、指を立てる。


「一つ。現場改革を止めない」

「二つ。進捗を、全て共有する」


 沈黙の後、南部領主は深く頷いた。


「……受け入れる」


 だが、その決定は——

 別の火種を生んだ。


「なぜ、あそこだけ?」


 北部領の側近が、不満を漏らす。


「うちだって、負担は増えている」


 声は小さい。

 だが、確実に存在する。


 エリシアが、アレンに低く言った。


「……連合は、もう“平等”ではいられません」


「最初からだ」


 アレンは答える。


「平等な制度は、不平等な結果を生む」


 その夜。

 アレンは、一人で帳簿を見ていた。


 連合全体の数字は、改善している。

 だが、線は均一ではない。


「……ここからだな」


 成功する場所と、遅れる場所。

 支える側と、支えられる側。


 その構図は、いずれ——

 必ず、政治になる。


 翌日。

 王都から、監査名目の連絡が入った。


 ――連合内の財政調整について、確認したい。


 アレンは、紙を置いて呟く。


「……嗅ぎつけたか」


 歪みは、小さい。

 だが、国家は——

 小さな歪みを、決して見逃さない。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日からは1日1話の投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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