第17話 連合の最初の仕事
統治連合が発足して、三日。
まだ何も変わっていない。
それが、全員の共通認識だった。
「……で、最初は何をする?」
会議室で、ラグナが腕を組んだまま言った。
集まっているのは、前回と同じ顔ぶれ。
だが、空気は明らかに違う。
今度は「お試し」ではない。
連合としての決定が、それぞれの領地に影響する。
「物流拠点の設置です」
アレンは即答した。
「まず、物を流せなければ、連合の意味がない」
地図が広げられる。
街道、河川、既存の倉庫。
「候補地は三つ」
アレンは指で示す。
「北部街道沿い」
「中央河川港」
「南の旧軍需倉庫跡」
沈黙。
次の瞬間、反応は分かれた。
「北部だな」
ラグナが言う。
「治安が安定している。防衛もしやすい」
「中央河川です」
マリナが被せる。
「輸送効率が段違い。費用対効果が高い」
「南だ」
別の領主が言った。
「空き地がある。初期費用が安い」
予想通りだった。
誰もが、自分の領地に近い場所を推す。
エリシアが、静かに言う。
「……全員、正しいですね」
「だから厄介なんだ」
アレンは苦笑した。
「数字で見よう」
帳簿が配られる。
輸送距離、費用、治安コスト、拡張余地。
だが——
「数字は理解できる」
ラグナが言う。
「だが、俺は納得しない」
会議室の空気が、ぴりついた。
「北部を外せば、防衛が弱くなる」
「それは、連合全体のリスクだ」
「河川を外せば、長期的に損失です」
マリナが即座に返す。
「防衛は後からでも補える」
「流れは、最初に作らなければ意味がない」
声が重なる。
誰も、間違っていない。
だから、決まらない。
アレンは、深く息を吐いた。
「……一つ、確認する」
全員が静まる。
「半年後、この連合で何が達成されていれば“成功”だ?」
沈黙。
やがて、一人が言った。
「黒字」
「流通の安定」
「治安悪化がないこと」
アレンは頷いた。
「では、逆に聞く」
彼は、地図を指した。
「半年で“一番失敗する可能性が低い”のは、どこだ?」
ラグナが、眉をひそめる。
「……中央河川か」
マリナも、頷いた。
「短期の効率は、確かにそこです」
他の領主も、渋々同意する。
「半年限定」
「成果が出なければ、次は別案」
アレンは、条件を切った。
「これは、勝敗を決める話じゃない」
「連合として、最初に“成功体験”を作る話だ」
沈黙の後。
「……分かった」
ラグナが、短く言った。
「だが、次は譲らん」
「当然だ」
アレンは答えた。
こうして、連合最初の決定が下された。
中央河川港を、統治連合の物流拠点とする。
決定から、実行までは遅かった。
「許可が要る」
「人手が足りない」
「費用配分が未確定だ」
合議制は、一つ一つを確認する。
その間にも、倉庫は埋まり、物は滞る。
「……一人でやっていた頃なら」
エリシアが、小さく呟く。
「三日で終わってましたね」
「国家は、三日で動かない」
アレンは静かに答えた。
「だから、壊れにくい」
数日後。
河川港に、連合の旗が立った。
まだ小さい。
だが、確かに“連合としての仕事”だった。
最初の船が、穀物を積んで出航する。
「……動いたな」
ラグナが、低く言った。
「遅いが、確実だ」
マリナが付け加える。
「だが、数字は出ます」
アレンは、その様子を見つめながら理解していた。
これは、序章だ。
連合は、まだ“うまくいっている”。
だが——
必ず、うまくいかない領地が出る。
必ず、負担に耐えられない場所が現れる。
そして、その時。
連合は、初めて試される。




