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辺境領に飛ばされた元官僚、数字だけで王国を立て直す 〜廃領再建から始まる、数字と制度の国家経営録〜  作者: 蒼井テンマ


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第16話 統治連合、発足

 文書は、淡々としていた。


 ――辺境統治連合、試験的発足。

 ――参加領地、五。

 ――代表調整役、クロフォード領主。


 王都の文面は、いつもそうだ。

 感情を削ぎ落とし、事実だけを並べる。


「……代表“調整役”ですか」


 エリシアが、紙を見つめたまま言った。


「代表でも、長でもない。責任だけある立場だな」


 アレンは、短く答えた。


 拒否権はない。

 選択肢も、ほぼない。


 だが、無理矢理押し付けられたわけでもなかった。

 王都は、賭けに出ている。


 ――こいつが、どこまで制御できるか。


 最初の会合は、旧街道沿いの中立都市で行われた。


 石造りの会議室。

 長机を挟み、五人の領主が顔を揃える。


 視線は、露骨だった。


「……若いな」


 最初に口を開いたのは、北部領主ラグナ・ヘルディンだった。

 体格が良く、鎧姿のまま椅子に座っている。


「戦でも始める気か?」


「内政の話だ」


 アレンは、淡々と返す。


「戦は、始めないためにある」


 鼻で笑う気配。


「理屈だな。だが、理屈で人は動かん」


「動かす仕組みはある」


 アレンは、地図を広げた。


「問題は、流れだ」


 倉庫、街道、河川。

 線で結ばれた連合領。


「今まで、各領は自分の中だけを最適化してきた」

「だが、物は境界で止まる」


 別の領主が腕を組む。


「つまり、うちが通せば、そちらが儲かる」


「逆も同じだ」


 アレンは即答した。


「単独では小さく、連合すれば大きい」


 沈黙。


 次に口を開いたのは、女だった。


「数字は、信用できますか?」


 マリナ・エヴェルト。

 元商会幹部。冷たい視線。


「机上の計算なら、いくらでも綺麗にできる」


「現場の数字だ」


 アレンは帳簿を差し出した。


「誤魔化せば、即崩れる設計にしている」


 マリナは、しばらく黙って数字を追った。


「……確かに、無駄は少ない」


 だが、続ける。


「問題は、分配ですね」


 会議室の空気が、わずかに重くなる。


 誰もが分かっている。

 連合の最大の争点は、そこだ。


「物流拠点は、どこに置く?」

「税の配分は?」

「治安費は誰が出す?」


 声が重なり始める。


 アレンは、すぐに結論を出さなかった。


「まず、試験だ」


 全員の視線が集まる。


「期間は半年」

「物流は三路線のみ」

「利益配分は、流通量比」


 ラグナが眉を上げる。


「うちが損をする可能性があるな」


「ある」


 アレンは否定しなかった。


「だが、半年で撤退もできる」


 それは、逃げ道だった。

 だからこそ、飲める条件でもある。


 沈黙の後。

 一人が、ゆっくり頷いた。


「……やってみる価値はある」


 連鎖的に、頷きが増える。


 全会一致ではない。

 だが、反対も出なかった。


 その瞬間。


 アレンは理解した。


 ――ここから先は、速くならない。


 合議。

 調整。

 妥協。


 一人で帳簿を睨んでいた頃には、戻れない。


 会合の終わり。

 ラグナが、低い声で言った。


「言っておく」


「何だ」


「連合が弱くなれば、俺は抜ける」


「当然だ」


 アレンは答えた。


「弱くならないようにする」


 夜。

 宿舎で、エリシアが呟いた。


「……思ったより、厄介ですね」


「国家は、もっと厄介だ」


 アレンは、窓の外を見る。


 連合は、発足した。

 だが、それは安定ではない。


 五つの意志が、同じ方向を向いているだけだ。

 少し力を加えれば、簡単にずれる。


 そのことを、王都は知っている。


 だからこそ——


「次は、揺さぶりが来る」


 アレンは、静かに言った。


 統治連合は、船出した。

 だが、その海は、最初から荒れていた。


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