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辺境領に飛ばされた元官僚、数字だけで王国を立て直す 〜廃領再建から始まる、数字と制度の国家経営録〜  作者: 蒼井テンマ


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第13話 領地の限界

 問題は、同時多発的に起きた。


「北の倉庫が、満杯です」

「南街道で、他領の商人と揉めています」

「周辺領が、通行税を引き上げました」


 報告が、立て続けに届く。


 アレンは、地図を机に広げたまま動かなかった。

 一本一本の問題は、小さい。

 だが、全てが同じ方向を向いている。


「……流れを、止めに来ている」


 エリシアが、苦い顔で言う。


「周辺領ですか?」


「ああ」


 アレンは、地図上の境界線を指でなぞった。


「この領地は、食糧を生み始めた」

「だが、出入り口は他領に握られている」


 倉庫が溢れるのは、売れないからだ。

 売れないのは、運べないからだ。

 運べないのは、通行を制限されているからだ。


「……これは、嫌がらせですね」


「政治だ」


 アレンは静かに言った。


「力のある場所に、流れが集中するのを嫌う者は多い」


 実際、周辺領からの通達は揃って曖昧だった。


 ――治安維持のため。

 ――街道補修のため。

 ――一時的な措置。


 どれも、否定しづらい理由だ。


「抗議しますか?」


「しても無駄だ」


 アレンは首を振る。


「向こうは、法の範囲でやっている」


 エリシアは、歯噛みした。


「では、どうするのですか?」


「……ここまでだ」


 アレンの声は、低かった。


「一領地として、できることは」


 沈黙が落ちる。


 その意味を、エリシアは理解した。


「私たちは、正しいことをしています」

「でも、周囲が従う義務はない」


「そうだ」


 アレンは頷く。


「制度は、強制できない」

「強制できるのは、国家だけだ」


 その夜。

 ガルドが報告に来た。


「治安は維持できています」

「だが、街道の先で止められれば、どうしようもない」


「分かっている」


 アレンは、苦笑した。


「剣では、解決できない問題だ」


 翌日。

 農民代表と商人代表が集められた。


「売れないなら、来年作れない」

「倉庫が限界だ」

「このままじゃ、腐る」


 不安は、現実的だった。


「……選択肢は二つある」


 アレンは、ゆっくり言った。


「一つ。生産を抑える」

「二つ。流れを広げる」


 誰もが、息を呑む。


「前者は、後退だ」

「後者は……領地の枠を超える」


 エリシアが、小さく呟いた。


「王都……」


「許可が要る」


 アレンは、はっきり言った。


「連合。共同物流。統一規格」

「これ以上は、勝手にできない」


 その瞬間。

 アレンは、はっきりと自覚した。


 自分は、もう「辺境領主」ではない。

 いや——


「……ここまで来るとはな」


 独り言のように呟く。


 その日の夜。

 一通の使者が、王都から到着した。


 書状には、簡潔な文が並んでいる。


 ――王都にて、協議を行いたい。

 ――辺境領の今後について。


 エリシアは、紙を見つめた。


「……呼ばれましたね」


「ああ」


 アレンは、地図を畳んだ。


「逃げ道はない」


 窓の外では、満杯の倉庫が月明かりに照らされている。

 成功の証。

 そして、足枷。


 アレンは理解していた。


 正しさは、力にならない。

 力に変えるには、枠組みが要る。


 ――領地の限界は、国家の入口だ。


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